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兄ちゃんは腰掛けていた椅子から降りて、ゆっくり僕の方に歩いてきます。兄ちゃんは僕よりも20センチも身長が高いので、近づくと少し怖くなってきます。噂によると、学校では顔が怖いと言って、逃げていく人たちが多いそうです。大きくて顔も怖ければ、確かに怖くて逃げたくなる気持ちも理解します。
でも。
「──髪、乾かさずに寝ようとしてるだろ。蘭太」
「はい。それがどうかしましたか?」
「どうかしましたか、じゃねぇよ。風邪ひくだろうが。洗面所まで一緒に戻れ。俺が乾かしてやるから」
──兄ちゃんは優しいので、全然怖くなんてないんですけどね。
ぼくは肩を掴まれてから洗面所まで連行されて、強い熱風と頑強な両手で髪をがしがしともみくちゃにされていきます。じめっとしていた髪の毛が、だんだん艶のあるすっきりとした髪の毛に変わっていって、僕は自然と笑顔を漏らしました。
「蘭太。お前最近、中学校に行ってから悩んでないか?」
「はい。特にありませんよ」
「本当にそうか? 担任から俺のことで何か嫌なこと言われてねえか?」
「いえ。確かに久保先生は、庸平兄ちゃんが怖いから、ぼくに何とかするようにお願いしてきましたが、ぼくが『庸平兄ちゃんは優しいから、絶対に危なくないですよ』って教えてあげると、納得したみたいでしたから」
「あぁ……あの野郎、余計なこと蘭太に言いやがって」
「あの、庸平兄ちゃん。手に力が入ってます。痛いです。力を抜いてください。痛いです」
世間話を楽しみながら、ドライヤーがようやく終わると、兄ちゃんはぼくの肩をとんとんと優しく叩いて言いました。
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