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ぼくの為を思って、きっと、いや絶対に、そう思って言いました。
「……庸平兄ちゃん、ごめんなさい。ぼくは一つ、約束を破ってしまうかもしれません」
ベッドに飾ってある写真立てを手に取り、そこに仲良く映る、ぼくと庸平兄ちゃんを見てぼくは思想しました。
──食べてはいけないと言われる食べ物があったとして、食べてしまうと世界に大いなる災いが起こるとする。
でも、その食べ物はこの世の何よりも甘く、優しく、そして食した者に幸せをもたらす。
禁断の食べ物。それを口にした時、ぼくは日常を失ってしまう代わりに、この世の何よりも大切な人を、得ることができる。
──ぼくは、どっちを選ぶべきなのでしょうか。
写真に映る庸平兄ちゃんは、何も答えませんでした。ただ、ぼくを見てニヤリと笑うだけです。
数秒写真を見つめていたぼくは、とうとう馬鹿らしくなってきて、写真の庸平兄ちゃんに唇を当てて、電気を消してしまいました。
「……おやすみなさい。そして、ごめんなさい。庸平兄ちゃん。ぼくは、少しだけ悪い人になってしまったかもしれません」
誰にともなくそう呟き、ぼくはやっと、眠りに就きました。
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