内緒の京都旅

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「美奈ちゃん、京都行くか」 「えっ、やった-」  小学二年生の美奈は、降って湧いた父との旅に大喜び。なんたって新幹線も京都も初めてだから。  プラットフォームにやって来た実物の新幹線にウキウキ。座席で猛スピードで駆け抜けていく景色に目を奪われる。 「京都ってどんなとこ?」 「古い都だよ。今日は美奈ちゃんの好きなものを見よう」  古い都…。古い建物がたくさんあるのかな。私の好きなものって何だろう。  新幹線を降りた。  プラットフォームの人混みを抜けると、 「こっちだよ」  また電車に乗った。  古い都、早く見たい。 「着いたよ」  道路に出ると、たくさんの人が同じ方向に歩いている。  入り口。  京都には入り口があるんだ。  父が何かを買っている。周囲は人で(あふ)れている。  パッカパッカパッカ…  何だろう、あの音。  京都って不思議。 「美奈、こっち」  父に連れられてどんどん歩いて行く。  視界が急に開けた。 「わ-」  たくさんの馬が一生懸命走っている。  パッカパッカパッカ…  目の前にやってくる。  (すご)い迫力、(すご)い音、ツヤツヤな毛。  午年生まれだから馬は大好き。  父は紙を握りしめて、何か叫んでいる。  そして、「あー」とため息。  今度は、父が応援している馬を教えてくれた。  馬たちがこっちにやってきた。  美奈もドキドキして一緒に応援する。 「1着!」  古い都が頭の中から吹っ飛んだ。  いつのまにか、日が傾いていた。 「美奈ちゃん、今日のことは内緒だよ。マンガ買ってもいいよ」 「本当?」  帰り際、いつもは禁止のマンガを買ってくれた。  初めて手にした少女マンガ雑誌は、大きくて、ツルツルして、インクのいい匂いがした。  
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