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1 サマルカンドブルー
あの人にとってわたしがどういう存在か知らない。でも何かがじわりと忍び込んで来るようだ。それは愛なのかそれとも憎しみなのか、わたしには判断できない。
ポツンと砂漠の真ん中にでも取り残された様な気分の午後、もう4月だと言うのに気温が低くて携帯電話を操る指先が妙に冷たい。
東京の桜がとか黄砂がどうとか天気予報はもういい、報道バラエティは落ち着いた幸福感に満たされた人達が見る番組だ。明日や来週の世界情勢など最早今のわたしにはどうだって構わない。
そんなことよりも今わたしの心を捉えて離さないのはこの携帯に表示されたLINEの着信履歴だ。ほぼ3ヶ月ぶりくらいか……。
あの人からのLINEが来る度、わたしはドキドキしてしまう。いつも何らかの胸騒ぎが引き起こされる。
あまり早くに既読を付けたくない。待っていた様に思われるのは嫌だ。気になるけれど、暫く放置する。
あの人ーー名前を『こう』と言う。
出逢ってすぐ燃えるような恋に堕ちた。
もう10年近く前の話。
一生をかけてもいいと思える恋だった。
けれど、彼は気まぐれだった。
仕事のせいもあるけれど、突然長い間連絡が途切れることがある。
会えば優しくしてくれるものの、長続きしないのが悪いクセなのか、今回も海外赴任と言ってはそれきりの3か月だ。
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