10.幼き日の記憶:幽霊屋敷への道のり

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 10.幼き日の記憶:幽霊屋敷への道のり

「ったく、幽霊屋敷(あそこ)に行くってんなら早く言えよなー」  エヴァンとサミュエルとアナベルの三人は、ギルの右手の灯りに先導されて地下通路を進んでいた。  アナベルの言葉を聞いたギルが「幽霊屋敷に行くなら近道がある」と言い出し、二人はどうにも断れなかったからだ。 「この前ベンとラスティとあの屋敷に行った帰り偶然見つけたんだ。ほら、近くに古い教会と墓地があるだろ? その墓地の石像の裏に扉を見つけてさ。鍵空いてたから入ってみたらさっきのとこに繋がってたってわけ。途中何か所か分かれ道があるけど、まぁ道なりにすすめば問題ないから。――あっ、俺たちだけの秘密だぞ。他の奴らには絶対言うなよな」 「……いや、まぁ言わないけどさ」 「本当にちゃんと着くんだよね……?」 「何だ、ビビってんのか二人とも。アントニーのがよっぽど男らしいな」  ギルは快活に笑いながら、自分のすぐ横を歩くアナベルを満足そうな視線で見下ろす。   彼の言葉どおり、アナベルの足取りは軽快だった。  彼女の歩みはギルと同じく、暗闇を少しも恐れることなくどんどんと先に進んで行く。地下なだけあって窓の一つもなく、昼間の今でさえ日の光は全く入ってこないというのに、アナベルはその幼さ故か、公園の花道を歩くかのように軽やかな動きなのだ。 「お前、怖くないのかよ」  サミュエルが前を歩くアナベルに尋ねれば、彼女はきょとんとした顔で振り向いた。 「どうして?」 「だって暗いの苦手だろ」 「へいき! みんながいるもの!」 「ああ……そーかよ」  サミュエルはアナベルの返答に、今日何度目かわからない盛大なため息をつく。本当に面倒なことになったな……と思いながら。  幽霊屋敷にアナベルを連れていくこと自体も問題で面倒だが、サミュエルはそれ以上にアナベルの侍女ステラのことが気にかかっていた。ステラは今頃アナベルがいないことに気が付き、顔を真っ青にしていることだろう。  屋敷に戻ったら彼女にフォローを入れるだけで済むだろうか。自分が怒られることは覚悟出来ているとはいえ、彼女が首になったりはしないだろうか。  サミュエルは8歳ながら、そんなことに頭を悩ませていた。  そうして彼は、今度は隣を歩くエヴァンの様子を伺う。  エヴァンは、この地下道に入る前からずっと浮かない顔だ。屋敷で「幽霊屋敷に行こう」「いや行かない」と押し問答をしていたときから、ずっと。  もしかしなくてもエヴァンは、幽霊屋敷が怖いのだろうか……? そうだとしたら本当に悪いことをした、と。  彼が屋敷でエヴァンに対し「幽霊屋敷が怖いんだろ」とからかったのは、売り言葉に買い言葉……というか、本当にそう思って言ったわけではなかったのだ。  でももしも本当にエヴァンが怖いと思っているのだとしたら、自分の言葉にエヴァンは傷ついたかもしれない。  そう考えると、サミュエルは自分の言葉に罪悪感を感じずにはいられなかった。
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