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「まぁいいでしょう。……それで、お見合いはどうなったのですか?」
「あ……ああ。あいつはファルマス伯を個人的にお茶会に招待していた。そうして伯爵が帰ったあと、俺はあいつに尋ねた。縁談はちゃんと断ったのか、と。そしたら、そうだと答えたから、この話はそれで終わったものだとばかり思っていたのに……」
その時のことが思い出されるのか、エヴァンの顔が歪んでいく。
「しばらくして、侯爵から父上宛にまた手紙が届いたんだ。それはアメリアへの正式な婚約申込書だった。これにはあいつも驚いた様子で、その日は一日中部屋から出てこなかったほどだ。――そして昨夜、俺が君と夜会に出掛けたその後のことだ。父上と母上が招待されていたスペンサー侯爵家主催の夜会に、アメリアが急に着いていくと言い出したらしい。そしてその夜会にて同じく招待されていたファルマス伯爵より結婚を申し込まれ……あいつはその場で承諾したと」
エヴァンはそこまで語り切ると、その整った顔に深い苦悶の表情を浮かべる。
「なるほど。それであなたは今朝その事実を知って、こうやってわたくしの元に駆け込んで来た……と」
「ああ。そういうことだ」
エヴァンが頷けば、アナベルはようやく話が繋がった、と息を吐く。
そうして再び考え込んだ。この不可解すぎる婚約に。
「にしても……確かにこれは色々と妙ですわね」
断った筈の婚約を強行してきたファルマス伯爵の行動も。そして、ここしばらくずっと社交を避けていたアメリアが急に夜会に参席したことも。それに何より、ひと目の多い夜会で求婚など、普通なら考えられることではない。
「な? どう考えてもおかしいだろう? 大体、ファルマス伯爵ほどの男がアメリアに縁談を申し込むこと自体があり得ないんだ。もっと相応しい令嬢が数多いるだろうに、どうしてよりにもよってアメリアなんだ」
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