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――こうなると私のやるべきことは、どうにかしてエヴァンを諫めることだけど……。さて、どうしたものかしら。
アナベルが悩んでいると、部屋の扉がノックされた。
相手はもちろん侍女のクレアだ。朝食を運んできたのだろう。
「入っていいわ」――アナベルはそう声をかける。するとクレアは扉を少しだけ開きながら、ためらいがちにこう言った。
「あの……ハロルド卿がお見えになっておりますが……」
「ハロルドですって?」
ハロルド――姓はハードウィック。先々代のときからエヴァンの家門――サウスウェル家に仕える騎士家系出身の者だ。
彼は産まれながらにしてサウスウェル家に仕え、主にエヴァンの護衛役を務めてきた。
クレアからその名を聞いたアナベルは、まさか――と急いでエヴァンの方を振り向いた。するとやはり、そこにいた筈のエヴァンの姿はない。
彼女は次に窓際を見やった。――すると、いた。
エヴァンはいつの間にやら窓を大きく開け放ち、今にもそこから飛び降りてしまいそうな勢いで身を乗り出しているではないか。
「エヴァン、ここは二階よ! 忘れたの!?」
「構うものか! ハロルドには俺は来ていないと伝えてくれ!」
「いい加減にして! あなたって本当に馬鹿なんだから!」
アナベルは慌てて窓際へ駆け寄ろうとする。
けれどそれより速く、彼女の横を疾風が駆け抜けた。そして目にも止まらぬ速さでエヴァンを窓から引きずり下ろすと、次の瞬間にはうつ伏せの状態で拘束していた。
それをしてみせたのはまさに――ハロルド・ハードウィックその人であった。
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