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7.それぞれの目的
いったいいつの間に戻ってきたのだろうか。全く気配を感じなかったけれど……。
そう考えるアナベルの横で、ルイスは高圧的とも取れる態度でアルバートを見下ろした。
「そうですよね? ――じゃありませんよ。余計なことをペラペラと」
「おや、何か問題が? アナベル嬢はあなたが元孤児だからと差別なさるような方ではありませんよ。ね、アナベル嬢?」
「――えっ、……ええ」
突然同意を求められ、アナベルの声が裏返る。
「“ね?”とかやめてください。そもそも、アナベル様は貴族のご令嬢。急に孤児だとか言われたら反応に困ると言っているんです」
はあ――と大きく溜め息をつくルイス。
そんなルイスを、表情一つ変えずに見返すアルバート。
それはアナベルにとって、不思議以外の何物でもない光景だった。
中産階級の生まれのアルバートと、元孤児のルイス。
そんな二人が、しかも元家庭教師と生徒が、このような対等な関係を築くというのは並大抵の信頼感では難しい。
けれど、二人はこうしてお互いの気持ちを隠さず言い合うことができている。
「アナベル様、先生が申し訳ございません。驚いたでしょう? ですが、この際ですからお伝えさせてください。私は自分が孤児だったことを卑下したりはいたしません。確かにかつては己の過去を疎ましく思ったこともあります。けれどそんな私の弱さを、ウィリアム様は受け入れてくださいました」
ルイスは微笑む。
「だから、私はウィリアム様に恩をお返ししなければならないのです。ウィリアム様に幸せになっていただくことが、今の私の全て。そのためには、ウィリアム様とアメリア様の関係を良いものにしていく必要があります。ですから……アナベル様、あなたにはどうかサウスウェル卿と添い遂げていただきたく。それがあなたの幸せだと言うのなら、それは私の願いも同じ」
「……ルイス」
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