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――馬車が動き出す。
結局この日、エヴァンについて自分がどうするべきか――という点において明確な結論が出ることはなかった。
けれど収穫がゼロだったわけではない。
少なくとも、アナベルは悟ったのだ。
まだ一度たりとエヴァンに「自分の気持ちを伝えていない」ことを。
エヴァンに自分の気持ちが伝わっていないとは思っていない。エヴァンが自分よりアメリアを大切に想っている――それが間違いだとも思っていない。
けれど、きっとそれが全てではない。まだ自分の知らない何かがあるはずなのだ。
エヴァンがアメリアをどう思っているのか、エヴァンが自分のことをどう考えているのか。
――アナベルは馬車に揺られながら、ゆっくりと目を閉じる。
伏せた瞼の裏に、エヴァンの笑顔を思い浮かべながら……。
懐かしいエヴァンの笑顔。もう何年も見ていない、屈託のない彼の笑顔。
木々の隙間からこぼれる春の日の光のような、温かくて……優しい笑顔。
そんな彼の顔を最後に見たのはいつだっただろうか。いつからエヴァンは笑わなくなったのだろうか。
もしもそこに理由があるとしたら、それは一体どうして……? と。
――それがわかれば……もしかしたら……。
彼女は瞼を伏せたまま物思いにふける。
そうしていつしか、束の間の夢の中へと落ちていった。
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