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「わかったぞエヴァン、お前怖いんだろ! そんなに嫌がるなんて怖いからに決まってる! この弱虫!」
「なっ――その言葉、そっくりそのままお返しするよ! サムの方こそ僕と一緒じゃなきゃ怖いんだろ! だからそんなにムキになるんだ!」
「はっ……はああ!? そんなわけないだろ!? 馬鹿にするな!」
「だったら一人で行ってこいよ! 何と言われようと、僕は絶対行かないからな!」
「~~ッ、この……っ、石頭!」
「石頭はどっちだよッ!」
覗き込んだ部屋の中で押し問答を繰り返す兄たちの姿。そしてそれは次第にヒートアップし、二人はついにお互いの胸倉を掴み合い取っ組み合いの喧嘩を始めてしまった。
それは今まで一度だって見たことのない二人の荒っぽい姿で――そのことに恐怖を感じたアナベルは、気づけば泣き出してしまったのだ。
「けっ……けんかしないでぇ」
その頃の彼女には、二人が一体どんな理由でそうなってしまったのかなんてわかるはずもなく。絨毯の上で転げまわってお互いの身体を殴り合うその姿は、ただただ恐ろしいばかりで……。
けれどあるとき、そんな彼女の泣き声が届いたのか二人は不意に動きを止めた。
「あっ、え……アナ?」
「――いつから、そこに」
サミュエルがエヴァンに馬乗りになり、右腕を振り上げたままの状態で驚いたように口を開ける。対してエヴァンはサミュエルの胸倉を引きよせ頭髪を引っ張った状態のまま、顔を蒼くした。
その隙を見逃すまいと、アナベルは声を張り上げる。
「……けんか……しないっ……で!」
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