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「――ッ」
「……!?」
すると今度こそ我に返った様子でお互い距離を取り合う二人。そうして彼らは自らの服の埃をパッパと払うと、何かを取り繕うように彼女の方へと駆け寄ってきた。
「け、喧嘩なんて……してないよな!? エヴァン」
「あっ……ああ、ちょっと遊んでただけだよ。大丈夫、僕らは喧嘩なんてしてない。だから泣かないで、アナ」
二人はそんなことを言いながら、どういうわけかドアの外の様子を伺う。そうしてそこに誰もいないことを確認すると、安堵したような顔で扉を閉めてアナベルに向き直った。
そうして、傷だらけの顔に無理やり笑みを浮かべる。
「ほんとに喧嘩なんてしてないから」
「そうだよ、アナが気にするようなことなんて何もないからね」
けれど、幼い彼女にだってそれが嘘だと言うことくらいわかった。
それに、なんとなく悟ってしまった。二人が何か隠していることを。
だから彼女は、二人に疑わしい視線を向ける。
「おにいさま、うそついちゃいけないのよ」
「――う、嘘? なんのこと……」
「ねぇエヴァン、ふたりはなんでけんかしたの? おにいさまがエヴァンになにかわるいことをしたの? だからエヴァンはおこったの?」
「……そ、……それは」
「それはだれかにきかれちゃいけないことなの?」
「――っ」
刹那、驚いたように目を大きく見開く二人。
そんな彼らの姿に確信したアナベルは、二人を精いっぱいにらみつける。
「おしえてくれなきゃ、ふたりがけんかしてたことおかあさまに言いつけちゃうから」
「……ッ!?」
瞬間、絶句する二人。
彼らは気まずそうにお互い視線を送り合うと、今度は大きく溜息をつく。
そうしてどこか諦めた素振りを見せると、仕方ないなぁと呟いて、こんなことを説明してくれた。
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