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「いいか、アナ。絶対に帽子を取るんじゃないぞ。絶対にだ」
「アナ、いい? 僕の手をしっかり握って。何があっても放しちゃ駄目だからね」
――平民姿のエヴァンとサミュエルは、同じく平民の少年姿に変装したアナベルにそんな言葉をかけながら、重い足取りで街の通りを歩いていた。
「見ておにいさま! おみせがこんなにたくさん!」
「ああ……そーだな」
ここは街の中でもそれなりに大きい通りなだけあって、帽子や時計、宝石と言った装飾品店から、レストランや喫茶店などの飲食店まで、数々の店が軒を連ねている。
街歩きが初めてのアナベルはにはそのどれもが目新しく、エヴァンやサミュエルとは正反対に軽やかにスキップしては、目をキラキラさせてショーウィンドウを覗き込んだ。
「あっ、あのくつかわいい!」
「走っちゃ駄目だよアナ! ちゃんと僕の手を……!」
「だいじょうぶよエヴァン! ころばないから!」
「そういう問題じゃなくて……っ、ああもう!」
エヴァンとサミュエルはアナベルに振り回されつつも通りを進んで行く。
ときおり投げかけられる些細な問いかけに答えながら。
*
「おにーさま! あそこでがっきをえんそうしてる! ききにいきましょうよ!」
「駄目だ。あれはお金がいるんだぞ」
「……? おかねないの?」
「あるけど……子供だけなのに金持ってると思われたら、目をつけられて面倒だろ」
「ふーん?」
*
「ねぇエヴァン、あの子はたくさんのお花をもってどこにでかけるのかしら?」
「あれはね、アナ。お出かけじゃなくて、お花を売ってるんだよ」
「おみせやさんなの? でも、エヴァンやおにいさまとおなじくらいのとしなのに」
「うん……そうだね」
「……?」
*
けれどアナベルには、エヴァンやサミュエルの言っていることの半分も意味がわからなかった。
自分の問いにときおり難しい顔をしたり、面倒くさそうにため息をついたり、顔を見合わせたりする――二人のいつも見せない表情や態度を、アナベルはとても不思議に思っていた。
だがそれ以上にアナベルにとっては初めての街歩きが楽しすぎて、疑問など一瞬でどこかへ飛んで行ってしまう。
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