9.幼き日の記憶:子供だけの外出

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 そんなこんなで30分ほど進んだところで、サミュエルがふと立ち止まる。 「なぁアナ、もういいだろ? あそこにお菓子屋さんがある。キャンディー買ってやるから、それ持って帰ろう。な?」  そう言ったサミュエルが指さした先には、可愛らしい色の看板のかかったお菓子屋さんがあった。  透明なガラスの向こうの棚には、カラフルなキャンディーやチョコレート、クッキーやマフィンなどが並んでいる。  それを見たアナベルは、パッと顔を輝かせた。 「かわいいっ!」 「お前、ああいうの好きだろ? キャンディーだけじゃなくて、何なら全種類買ってもいい。帰るまでに食べきればばれないだろ」 「ぜんぶ!? ぜんぶって、あれぜんぶよね!?」 「ああ、そうだよ。だからあれ買ってもう帰ろう」 「……」  だがしかし、アナベルはどういうわけか頷かなかった。なぜなら彼女は、その瞬間思い出してしまったからだ。外出を兄らに無理強いした、一番の目的を。 「やっぱりいい。ゆうれいやしきにいきたいから」  そう。なんとアナベルは、幽霊屋敷に行きたいと言い出したのだ。  サミュエルとエヴァンは、当然のごとく驚愕する。 「はあ? 冗談だろ。まさか本気じゃないよな? お前、夜一人でトイレにだって行けないじゃないか。昨日の夜だって俺お前に起こされて……」 「――っ、でもいきたいの!」 「いや、幽霊屋敷ってお化けが出るって言われてるんだぞ? 俺たちの屋敷みたいに綺麗じゃないんだぞ?」 「そうだよ、アナ。それにあのお屋敷はとっても遠いんだ。アナが歩いて行くのは無理だよ」 「むりじゃない! あるけるもん!」 「いや、でも」 「いくったらいくの! い、く、のー!」 「…………」  赤い顔をして声を張り上げるアナベルに、エヴァンとサミュエルは困り果てた様子で顔を見合わせた。  少し連れ出してやれば満足するかと思っていたのに、こんなところで駄々をこねられたら溜まったものじゃない、と。  だがまだ幼いアナベルが、二人の気持ちに気付けるはずもなく。  二人が一瞬黙りこんだその隙に「ゆうれいやしきはあっちね!?」などと言いながら再び走り出そうとする。――と、そのときだった。
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