9.幼き日の記憶:子供だけの外出

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「あれっ、エヴァンにサムじゃねーか。何やってんだこんなとこで」  更にタイミングの悪いことに、二人に声をかける者が現れたのだ。 「――ギル」 「君こそ、どうしてここに……」  ギルと呼ばれた少年はまさに平民だった。  お世辞にも白いとは言えないシャツにやや丈の足りないズボン、キャスケット帽をかぶる姿は一般的な労働階級の装いだ。  つまり彼は、エヴァンとサミュエルの今の姿――平民――の知り合いなのだ。 「俺? 俺は見ての通り、親父のお使いだけど」  彼は二人よりもいくらか年上なのか、身長は卵二つ分ほど高く大人びた顔つきをしていた。  グレーの瞳と茶色の短髪に特徴はないが、それゆえに彼の口調の強さはかえってそれを印象づける。  そんな彼は確かにその言葉どおり、いつもなら持っていない大きすぎる鞄を肩から斜めにかけていた。  サミュエルはそんなギルの鞄を見つめ、吹き出る冷や汗を誤魔化すようにからかいの笑みを浮かべる。 「お使い……へぇ。お前、お使いとかする奴だったんだな」 「そりゃ俺だってやりたくねーよ。ああ、お前ら代わってくれる?」 「はっ、やなこった」  サミュエルはギルに向かって軽口を叩きながら、側にいるエヴァンの様子をちらりと伺った。  エヴァンはギルがサミュエルに気を取られている間に、アナベルを物陰に隠そうとしていたのだ。
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