9.幼き日の記憶:子供だけの外出

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 だが、さすがにそれには無理があった。当然のごとくギルはアナベルの存在に気付き、わざとらしく首をひねる。「ところでそのチビ、誰?」と。  瞬間、顔を強張らせる二人。もしもアナベルの本当の性別を知られれば、さぞかし面倒なことになるだろう。  そう考えた二人は、今にも自己紹介を始めてしまいそうなアナベルの口をぐわっとふさぎ、早口で話し始めた。 「こ……っ、こいつは俺の親戚で。えーと……そう、従弟(いとこ)なんだよ!」 「そうそう、サムの従弟で田舎から出てきたばかりなんだ! 名前は……アn……アントニー!」 「へえ? アントニーか」  ギルは何か珍しいものを見るかのように少年姿のアナベルを上から下までひとしきり眺める。そうして、アナベルに直接尋ねた。「年はいくつだ?」と。  するとアナベルは、サミュエルとエヴァンの様子を伺いながら「5さい」とそっと答える。  その答えに、カッと目を剥きサミュエルの方を振り向くギル。 「5ォ!? これでか!? ガリガリじゃねーか! これなら俺んとこの赤んぼのがまだマシだぞ! もっと食わせろって親に言っとけ!」 「……あ、ああ」 「こんな細くちゃ立ってるだけで倒れそうだ。――で? 結局お前らはこんなところで何してんの?」 「え?」 「こんな大通りで、お前らもお使いかなんか?」 「……それは」  ギルの容赦ない言葉と質問に、流石のサミュエルもタジタジになる。  ――と、そのときだ。 「ゆうれいやしき!」――そう叫んだのは勿論アナベルだった。 「あ? 幽霊屋敷?」  尋ね返すギルに、アナベルは――エヴァンとサミュエルの顔が蒼くなったことに気が付かず――満面の笑みで答える。 「これからみんなで、ゆうれいやしきにいくところなの!」と。
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