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――なんてことなの。
さすがのアナベルもこれにはドン引きした。そうして、拘束を解かれたにも関わらず床に臥せったままのエヴァンを冷たく見下ろす。
「エヴァン……全面的にあなたが悪いわよ」
いくら許せないことだったとしても礼儀を欠いてはいけないし、人を怪我させるなどもっての他だ。
アナベルがそう諭すと、エヴァンはようやく上半身を起こし――呟く。「わかっている」――と。
「俺にだってわかっている。……だが、どうしても自分では止められなかったんだ」
「そんなにアメリア様の婚約が許せない? それがご本人の幸せであっても?」
アナベルが尋ねれば、エヴァンは勢いよく立ち上がる。
「理屈じゃないんだ。俺だってあいつには幸せになってもらいたいと思ってる! だが、この婚約はどうしても受け入れられないんだ……!」
そしてこう叫んだかと思うと、終いにはシクシクと声も上げずに泣き出してしまった。
そんなエヴァンの姿に、アナベルだけでなくハロルドも困惑を隠せない。
「……え、エヴァン? ちょっと、まさか泣かなくても」
「エヴァン様、あなたには男のプライドというものがないのですか……」
「黙れハロルド! お前に俺の何がわかる!」
「わかりたくもありませんが――とにかく、今日はもう帰りましょう。あまり女性を困らせるものではありません。アナベル嬢、大変失礼ですが……私は今直ぐエヴァン様を屋敷に連れ帰らねばなりませんので、正式な謝罪はまた後日ということで」
「……ええ、それで構いませんわ」
こうしてエヴァンはハロルドに引きずられ、アナベルのもとを騒々しく去っていったのだった。
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