11.幼き日の記憶:いざ、幽霊屋敷へ

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「……おい、大丈夫かエヴァン。何なら今からでも引き返して――」  それはエヴァンへの配慮でもあった。が、それと同時に、恐怖心から出た言葉でもあった。  もしエヴァンが“帰る”と言ってくれたら、自分もここから離れることができる――そんな下心から出た言葉。  けれどサミュエルの期待に反し、エヴァンは頷かない。 「大丈夫だよ。確かに不気味だけど……多分、悪い霊(・・・)じゃないと思う。それにギルからランプまで預かっちゃったし。っていうかもしかしなくても、帰りだけじゃなくここで使えってことだったのかも」  エヴァンはそう言いながら、右手にぶら下がるランプへと視線を落とす。 「中は暗そうだし、灯りなしで回るのは危ないと思う。このランプ、ありがたく使わせてもらうのはどうかな」 「……お、おう。……使うか、ランプ」  サミュエルは正直驚いた。困惑を隠せなかった。  帰りたいそぶりを少しも見せないこともそうだが、それ以上にエヴァンの言葉が引っかかった。  それは、“悪い霊じゃないと思う”――その言葉に。 「サム? どうかした?」 「――い、いや。何も……」  けれど同時に、そこには追及してはいけないような気がして、サミュエルは口をつぐむ。きっと聞き間違いだったのだ。そう思い込もうとする。  彼は頭を切り替えるため、二三度首を大きく首を振った。 「うしっ! じゃあまずは勝手口を探すか。キッチンならマッチがあるはずだ。ギルたちもランプ使ってたなら、鍵も開いてるだろ」 「そうだね、そうしようか」 「アナ、行くぞ」 「うん!」  三人はほどなくして勝手口を発見した。  結論、二人の考えは正しく――三人は施錠されていない勝手口から――屋敷の中へ入ることに成功したのだった。
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