13.幼き日の記憶:ミシェルの後悔

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*  ミシェルの部屋はとても可愛らしい部屋だった。  桃色の壁紙とカーテンに真っ白な家具。ベッドに並ぶ沢山のクマやウサギのぬいぐるみ。本棚に並ぶ子供用の絵本。そのすべては、ミシェルただ一人のために用意されたものに違いなかった。 「……可愛い部屋だね」  エヴァンが呟けば、ミシェルは嬉しそうに笑う。 『でしょう? 全部お父さまとお母さまが揃えてくれたのよ! わたしの宝物なの!』  そう言って、部屋の中をクルクルと踊り出すミシェル。  ドレスの裾が左右に揺れ、カールした金色の髪が午後の陽気に照らされてキラキラと輝く。  その姿は、さながら小さな天使が宙を舞っているようだった。  エヴァンはそれを微笑ましく思いながら、本棚から目についた本を一冊手に取ってみる。  それは見たことのない本だった。よくよく見れば他もタイトルすら知らないものがほとんどだ。背表紙を開くと、それらが輸入本であることがわかる。  エヴァンはそのことを不思議に思った。 「ねぇ、ミシェル。君はずいぶん博識なんだね。外国語の本がこんなにたくさん。もしかして君のお母様は外国出身だった?」  尋ねれば、ミシェルはぴたりと動きを止める。そして、寂し気に俯いた。 『そういうわけじゃないの。わたし……あまり外に出られなかったから』 「……え、どうして?」 『ずっと病気だったから。せめて本で広い世界を知ってほしいって、お母さまが』 「……っ」  予想外の返答に言葉を詰まらせるエヴァン。  今の彼女はこんなに元気で明るいのに、まさか生前病気だったなんて――。そんな感情が、つい顔に出てしまう。
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