13.幼き日の記憶:ミシェルの後悔

4/5
前へ
/150ページ
次へ
 ――逃げなければ、と思った。けれど同時に、逃げられないと悟っていた。  この屋敷全体が彼女のテリトリーだ。逃げられる筈がない。  それに、最初に彼女を受け入れたのは自分の方だ。彼女は安全だ、そう判断して屋敷に足を踏み入れたのは紛れもない自分自身。  だからエヴァンは覚悟を決めた。決してこの現実から目を逸らさないと。――そのためには、まず真相を知らなければならない。 「……マリーは、死んだんだね?」  呟くように尋ねれば、ミシェルはびくりと肩を震わせる。 「火事で死んだのは……君じゃなくてマリーだったんだね」 『……っ』  ミシェルのその反応に、エヴァンは彼女がここにいる理由に気が付いた。彼女は現世への未練ではなく、過去の後悔のためにここに縛り付けられているのだと。 「ねぇ、ミシェル。僕に話してくれないか。どうしてマリーは死んだのか。なぜこの部屋が、こんなに燃えてしまったのかを」 『…………』 「僕、君に声をかけられる前に一階を回ったんだ。火元はダイニングの暖炉だったんだろう? あそこだけ燃え方が違ってた。でもダイニングは棟の反対側だし、この部屋まで火の手は回らなかったはずだ。その証拠に、中央階段からこっち側はほとんど燃えていなかった」  エヴァンは慎重に言葉を続ける。 「ミシェル、過ぎてしまった過去を変えることはできない。でも、君の苦しみを共に背負うことはできる。だから……僕に話してみない?」 『……っ』
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

87人が本棚に入れています
本棚に追加