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――逃げなければ、と思った。けれど同時に、逃げられないと悟っていた。
この屋敷全体が彼女のテリトリーだ。逃げられる筈がない。
それに、最初に彼女を受け入れたのは自分の方だ。彼女は安全だ、そう判断して屋敷に足を踏み入れたのは紛れもない自分自身。
だからエヴァンは覚悟を決めた。決してこの現実から目を逸らさないと。――そのためには、まず真相を知らなければならない。
「……マリーは、死んだんだね?」
呟くように尋ねれば、ミシェルはびくりと肩を震わせる。
「火事で死んだのは……君じゃなくてマリーだったんだね」
『……っ』
ミシェルのその反応に、エヴァンは彼女がここにいる理由に気が付いた。彼女は現世への未練ではなく、過去の後悔のためにここに縛り付けられているのだと。
「ねぇ、ミシェル。僕に話してくれないか。どうしてマリーは死んだのか。なぜこの部屋が、こんなに燃えてしまったのかを」
『…………』
「僕、君に声をかけられる前に一階を回ったんだ。火元はダイニングの暖炉だったんだろう? あそこだけ燃え方が違ってた。でもダイニングは棟の反対側だし、この部屋まで火の手は回らなかったはずだ。その証拠に、中央階段からこっち側はほとんど燃えていなかった」
エヴァンは慎重に言葉を続ける。
「ミシェル、過ぎてしまった過去を変えることはできない。でも、君の苦しみを共に背負うことはできる。だから……僕に話してみない?」
『……っ』
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