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1.エヴァンの再訪
エヴァンの突然の訪問からちょうど一週間が経った日の午前中、再びエヴァンがやってきた。
「アナ! アメリアの婚約についてなのだが……!」
エヴァンは部屋に入るなり、開口一番にそう言った。それはまさしく前回と同様の内容で、アナベルは内心呆れかえる。
――が、今回は突然の訪問ではない。先んじて一応手紙を貰っていたし(内容は一方的なものだったが)、時間帯はやや早い気もするが常識範囲内だ。
それに今日はちゃんとハロルドを連れている。つまり、婚約者の正式な訪問だ。
だからアナベルは小さく溜息をつくのみで、エヴァンを咎めることはしなかった。
「エヴァン、あなたの話はわかってるからそれ以上はもういいわ。とにかく座って。クレア、お茶の用意は後でいいから、先にお兄様を呼んできてちょうだい」
アナベルの冷静な口調に、エヴァンは少々面食らったような顔をする。
けれど何か思うことがあったのか、言われるがままソファに腰かけた。
付き添いのハロルドはそんなエヴァンの後方で、立ったまま待機する姿勢を取る。
アナベルはクレアが出ていくのを見届けると口を開いた。
「エヴァン、わたくしもこの一週間いろいろと考えたのだけど……。はっきり言って、アメリア様の婚約を白紙に戻すのは現実的じゃないわ。家の評判にも関わるし、何より本人たちが望んで結んだ婚約をあなたがどうこう言うのはお角違いだと思うのよ」
「そんなことは百も承知だ! だから俺はお前に――」
エヴァンはアナベルの常識的な意見に、それでも――と物申す。が、アナベルはそれを遮った。
「いいから最後まで聞いて」
「……っ」
決して反論を許さない。そう言いたげな強い口調に、エヴァンは狼狽える。
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