1.エヴァンの再訪

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 二人の間に沈黙が続く。  しばらくすると、部屋の向こうから声が聞こえた。 「入るぞ、アナ」  それはアナベルの兄、サミュエルの声だった。  アナベルが返事をすると、サミュエルがクレアと共に入って来る。 「来たな、エヴァン」 「……サム」 「何だ、今日は随分大人しいじゃないか。この前はもの凄い騒ぎ様だったと聞いたが」  ――アナベルの兄、サミュエル・オールストン。エヴァンとは寄宿学校(パブリックスクール)入学以前、幼少期からの付き合いだ。  容姿はアナベルと同じく両親譲りの赤い髪と赤褐色の瞳で、目鼻立ちはくっきりしている。性格はいたって穏やか、常識人で、広い交友関係を持つ社交性の高い男――。  サミュエルはエヴァンのすぐ側まで歩み寄ると、エヴァンの肩へ遠慮なく腕を回した。 「アナから話は聞いてるぞ。お前は本当に相変わらずだな。アメリア嬢の婚約を潰したいんだって?」  サミュエルはニヤリと微笑む。  するとエヴァンは鬱陶しげに眉をひそめた。そうして、「悪いか」と呟く。  するとサミュエルは途端に表情を一変させた。 「そりゃあ悪いだろ。アメリア嬢にも先方にも……それに、アナにもだ」 「……アナだと?」  サミュエルの表情は真面目を通り越して怖いほどで、二人は少しの間、至近距離でじっと睨み合う。
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