2.いざ、夜会へ

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 三日前までの話では、アメリアは婚約後、何度かファルマス伯爵――ウィリアムと手紙のやり取りをするのみで、対面で会うようなことは一度もなかったという。屋敷での過ごし方や服装の変化もなし。  食事の席で父親であるリチャードからウィリアムのことを尋ねられても、「心配ない」「上手くやっている」というような言葉を返すのみで具体的な話はまったくでてこないという。 「様子は変わらんな。変わったところで俺ではその変化に気付けないだろうが。昔から家族にさえ隙一つ見せない奴だから」  エヴァンは冷静な口調で続ける。 「――が、一つだけわかったことがある。これは執事から聞き出したことだが、あいつはスペンサー侯主催の夜会に出席する少し前、ファルマス伯について調査していたらしい」 「あら、婚約相手を調べるのは当たり前のことではなくて?」 「ああ。だがあいつが最も気にしていたのはファルマス伯本人ではなく、その付き人だったそうだ」 「付き人ですって? どうしてまた」 「それはわからん。が、名は確か……、そう、〝ルイス〟と言っていた」 「ルイス……。ありふれていると言えばそうですけれど……頭には入れておきますわね」 「ああ」  ――こうして、馬車はエンバース子爵邸へと到着した。  エヴァンはアナベルをエスコートするために先に馬車を降り、背後を振り向くと慣れた様子で右手を差し出した。  アナベルは微笑み、その手を取る。  そして二人は腕を組み、会場内へと入っていった。
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