3.ダンスホールにて 

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 昔から妹アメリアを溺愛するエヴァン。本人は「兄として至って普通の感情だ」と断言しているが、周りからすればその溺愛っぷりはどう見たって異常である。  だが本人が普通だと言い張る以上それを否定するわけにはいかないし、それに否定したところで何かが変わるわけでもない。  アナベルはエヴァン見つめる。自分の視線に気付きもしない婚約者を、ただじっと……。  ――家族を愛するのは当然のことよね。私だってお兄様を愛しているもの。……でも。  もしもアメリア様と私、二人のうちどちらかしか助けられない状況になったなら、あなたはどちらに手を差し伸べるのかしら……。  その答えを知る者はエヴァンただ一人。だが、少なくともアナベルはこう考えていた。  エヴァンが助けるのは、妹のアメリアである――と。  だからアナベルは自分の感情を表立ってエヴァンに伝えることはしなかった。  五年前に婚約者という関係になってからも、エヴァンとの付き合い方はそれ以前――つまり幼馴染だったときのものと何ら変わりがないのは、アナベル自身がそう決めたからでもある。エヴァンが妹アメリアへの感情に区切りをつけるその時まで、幼馴染の関係のままでいよう……と。  そんなわけだから、婚約を結んでから五年の月日が流れた今も、二人の間に恋人らしき行為は一切ないのだ。それは軽い口づけ一つさえ。  だからアナベルは、アメリアの婚約成立の話を聞いたとき、これはチャンスかもしれないと思った。  アメリアとウィリアムの仲が上手くいけば、流石のエヴァンも諦めるのではないか……と。
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