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「……そう言えばお兄様、ファルマス伯爵はお一人でいらっしゃったのですか?」
アナベルは視線をウィリアムへと移して、兄サミュエルに問いかける。
別に一人での参加でも何らおかしくないのだが、一応確認しておくべきだろう。
「いや、男の連れがいた筈だ。今は席を外しているようだが、見慣れない顔だった。どうも変わった毛色でな」
「変わった毛色……? 外国の方ですの?」
「うーん。顔はこの辺の顔なんだが……髪と瞳が黒いんだ」
「黒……? それは珍しいですわね」
「ああ。見たらすぐにわかるぞ。何てったって目立つからな。エヴァンより目立つ」
確かに話通りなら、燕尾服と合わせて全身真っ黒である。目立たない筈がない。
アナベルは、その連れの男とは一体どういう人物だろうかと考えながら、ウィリアムの様子を伺っていた。
そうして十五分ほどが経過したとき、ウィリアムの周りに座っていた数名が同時に席を立つ。――どうやら話が終わったらしい。
「行くぞ」
真っ先に動いたのはエヴァンだった。彼は二人に目もくれず、近くにいた給仕の銀盆からワイングラスを取り、ウィリアムの方へ真っすぐに歩きだす。
アナベルとサミュエルはそんなエヴァンを心配に思いながら、急いでその後を追いかけた。
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