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――どうやら噂は本当みたいね。
ウィリアムの行動を目の当りにしたアナベルは、彼の人柄についての事前情報を思い起こしていた。
ファルマス伯爵ウィリアム・セシル、二十二歳。髪色はブラウン、瞳はグリーン。顔立ちは凛々しいというよりは甘く、声は落ち着きのあるテノールだ。
人柄がいいと評判で、能力的にも非の打ち所がないという。清廉潔白を好み、侯爵家という高貴な生まれでありながら、老若男女、貴賎上下の区別なく全ての者に平等に接するよくできた人物だと称されている。
事実、彼はその評判の通り、街に飢えた子供たちがいると聞けば自ら足を運び食事を分け与え、自らの領地に建てた孤児院に迎え入れるという。少し前には学校まで建てたという話だ。
だがアナベルは、こうしてウィリアムに対面するまでその噂をどうにも信用できずにいた。あまりに出来すぎた噂だからだ。
けれども実際にウィリアムを目にして、アナベルの考えは変わった。
ウィリアムはエヴァンの突然の声掛けにも全く動揺する素振りを見せなかった。つまり少なくとも、彼は身分や体裁、己のプライドを気にするような人物ではないということだ。
「では、お言葉に甘えて失礼いたしますわ、ファルマス伯爵」
三人は、ウィリアムの言葉に甘えて勧められるまま椅子に腰かける。
位置はウィリアムの左側にエヴァンが、テーブルを挟んでウィリアムの正面にアナベルが、そしてその隣にサミュエルが座った。
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