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アナベルは困ったように微笑んで、クレアに朝食を二人分部屋に運ぶように指示をする。もちろん、先ほどのエヴァンの言葉は決して他言無用だと言い付けて。
「それで、エヴァン。急にどうしたのよ。婚約を破談にしたいって、いったいどういうこと?」
クレアの背中を見送ってから、アナベルは改めてそう尋ねた。
するとエヴァンは、いつもならセットされている筈の長い前髪を無造作に掻き上げる。そうして、深い深いため息をついた。
エヴァンの美しい青い瞳が切なげに揺らめく。
肩にかかりそうな長さの金糸のような眩い髪が、窓から注ぎ込む朝日に煌めいて――こんな状況にも関わらず――アナベルは思わずその姿に見惚れそうになった。
赤毛の自分とエヴァンの金色の髪を比べると、わずかばかりの劣等感を感じてしまう。
が、人間見た目が全てではない。エヴァンの容姿は美しいが、性格を考えれば自分と相応――いや、おつりがくるほどではないだろうか。
――はあ。エヴァンったら、こうやって黙っていれば素敵なのに。
アナベルは不謹慎にもそんなことを考えながら、エヴァンの言葉の続きを待った。
少しの沈黙の後、重苦しく口を開けるエヴァン。
「アナ、君の知恵を貸してくれ。どうにかしてアメリアの婚約を破談にしたいんだ」
「……はい?」
――アメリア様……?
「わたくしとあなたの婚約ではなく?」
アナベルが困惑ぎみに尋ねれば、エヴァンは「何を言っている?」と心底不思議そうに首を傾げる。
「なぜ俺たちが婚約を解消せねばならない?」
「~~っ」
――全く、この人ったら……!
アナベルはエヴァンの頬をひっぱたきたい衝動に襲われた。
エヴァンの言葉足らずのせいで無駄に精神力を消耗したではないか。――そう文句を言いたくなったが、それでも彼女は何とか平静を装い、顔に笑みを張り付ける。
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