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アナベルはエヴァンの前にも関わらず、あまりにも不可解な状況に首をひねった。
こう言っては悪いが、エヴァンの妹アメリアは悪名高いことで有名なのだ。
夜会では話しかけれても無視を決め込み、ダンスを申し込まれても冷たくあしらう。他の令嬢のドレスにワインをわざとぶちまけ泣かせたり、給仕には無理難題を押し付ける。
エヴァンは事実無根だと否定しているが、屋敷の使用人を虐め倒し自死にまで追い込んだという噂まである。
つまり、ウィリアムからすれば絶対に相容れない筈の相手なのだ。
「……あの、冗談ですわよね? いつものエヴァンの妄想でしょう? そうよね?」
だからアナベルは、失礼なことを口にしている自覚もないまま身を乗り出してエヴァンを問い詰めた。
「何だと? いつもの妄想とはどういう意味だ」
「だって、アメリア様って……ちょっと、ほら……」
はっきりとは言えないが、かなりの問題児ではないか――。
アナベルはそう言ってしまいそうになる。
すると鈍感なエヴァンもさすがにアナベルの気持ちを察したのだろう。右手を上げて言葉を遮った。
「もういい、それ以上言うな。俺だって君の言いたいことは理解しているつもりだ。確かにここ数年のあいつはおかしい。兄である俺から見たって身に余る行動ばかりだからな。まったく、何を考えているのやら」
「…………」
――ああ、エヴァン。あなたも一応わかってはいたのね。
アナベルはエヴァンの冷静かつ客観的な言葉に、一先ず安堵感を覚えた。が、だからと言ってこの疑問が晴れる筈もない。
「ねぇエヴァン。最初から詳しく話してちょうだい。どうしてファルマス伯爵とアメリア様が婚約するに至ったのか……」
アナベルは尋ねる。するとようやく、エヴァンは婚約に至るまでの顛末を語り始めた。
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