10.エヴァンの帰宅

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 10.エヴァンの帰宅

 アナベルがルイスに全てを打ち明けるのと同じ頃、エヴァンはサウスウェル家の屋敷に到着していた。  神妙な面持ちで馬車を下り、一人静かに屋敷の扉を開ける。それはまるで人目を忍ぶかの様に。  けれどいくらエヴァンがひっそりと屋敷に入ったからと言って、使用人の目に留まらないわけがない。  実際、エヴァンに気付いた玄関付きの年若い従僕(フットマン)デリックは、突然のエヴァンの帰宅に驚き駆け寄った。 「お帰りなさいませ、エヴァン様。――申し訳ございません、突然のことで気が付かず……」    だが、エヴァンがそれに返事を返すことはない。  彼はデリックに見向きもせずに、黒の帽子――トップハット――を脱ぎ無造作に差し出す。  それはいつもの無愛想なエヴァンだった。  デリックはこの屋敷で働き始めて二年になるが、彼の知る限りエヴァンが使用人に感心を示したことは一度だってない。  基本的に使用人の方からエヴァンに声をかけることはないが、用があって話しかけたとしても、エヴァンは無言か、あるいは「ああ」や「結構」と言うような短い返答しかしないのだ。  だがそれはエヴァンに限ったことではないし、貴族であればむしろそれが当然とも言える。  貴族と使用人では身分が違うし、同じ場所に住んでいるとはいえ家族ではないのだから。
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