Cursed blood

2/5
前へ
/5ページ
次へ
“マガツ”という出自も存在も謎に包まれている、人を襲うだけが確かなバケモノを狩ること。 マガツは個体差があり、形も大きさも強さもまばらだが、今回のはそれなりに大きいようだ。 レイは走りながら、これからの手順を考える。 (あの傷からして、今回のマガツは刃物のようなものを持ち合わせていると考えていい…) 今はまだ朝の時間帯だし、商人によると、場所も外れの方だから被害は少なくすみそうなのが救いだ。 (あそこか!) 建物の陰から抜け、ホルダーから抜いた真新しい2つの銃を構える。 (大型が2体) そこにはレイの2倍を優に超える大きさの黒く禍々しい、刃のような腕を持つ化け物が2体いた。 向こうが気付く前に、懐に入り込み、一体の頭を打ち抜く。もう一体も撃とうとした瞬間であった。 レイは自分が盛大な勘違いをしていたことを知った。 (紅玉が…無い) “紅玉” それは、マガツの心臓のようなもの。マガツを倒すと手に入るのだが、色の澄み具合や光の通り具合でレア度が決まり、レア度が高いということは、つまりそれだけマガツの強さも強いことになる。とはいえ、基本的にはレア度の低いものが額らへんに埋まっているのが普通だ。 ただ、レイの目の前にいたのは、額の紅玉を撃ち抜いた一体と、紅玉の見つからないもう一体。顔のような場所で何かが弧を描く。 ーーまるで笑ったようだった。 レイがあっけにとられている一瞬。マガツは目の前に迫り、腕を一振り。 「がっはっ!」 近くのコンクリートに叩きつけられたレイは、すぐさま立ち上がろうとする。 これだから考えるのは得意ではない。レイは今この場にいない相棒を思い出し、舌打ちをする。 (あいつさえいれば、状況把握が正確にできるのに…) だが、ないものは仕方がないのだ。マガツは楽しいのか奇声を発している。 「っ、」 (速い…) これではこちらが攻撃を仕掛けることもできない。 攻撃するのにも、この強さならば弱点でないと通じないかもしれない。 肝心の紅玉の位置も分からない。状況は最悪だ。 マガツはまたもやこちらに迫ってくる。レイはグッと足に力を入れる。 ダンッダンッ 引き金を引くが、当たってはいるものの効いていないようだ。 大ぶりの横薙ぎに後ろに飛び、そこからの剣戟を最小限の動きでかわしていく。 (嘘だろ…速くなってる…?!) マガツは笑いながら攻撃のスピードを上げていく。 レイが多少よろめいた瞬間、うまく避けきれず、左腕に血が走る。 「っ、」 レイは素早く距離をとった。 (仕方がない、使うか…) しっかりと二丁の銃を前に構えたレイは目を瞑り、ゆっくりと深呼吸をする。 目の前には迫り来るマガツ。 (イメージしろ…) レイはゆっくりと目を開けた。 紅い、瞳だった。 ダンッダンッ マガツ向かって撃った弾はたやすく避けられてしまった。 マガツが笑う。 だが。 。 今度はレイが笑う番だった。 ザシュッ 急に現れた沢山の細い紅い刃がマガツを貫く。 「その弾は特別製なんだ。俺の血が入ってる」 ゆっくりとレイは語り出す。 「俺の血は、自由に形を変える」 これで終わりだ。 だが、やはりマガツは笑う。 (まだ何かあるって…?) マガツは今にも動き出しそうだ。 (クソッ!紅玉はそこじゃ無いってか) マガツの一振りがレイに届く直前。 「レイちゃんっ!そいつの口の中を見ろ!!」 (口の中…?) マガツが笑ったその先にかすかに開いた口の中から見えるのは… 紅玉…!! その時笑ったのは、レイだったか、マガツだったか、それとも他の誰かか。 「チェックメイトだ」 ダンッ 一発の銃声が響いた。 ーー目の前の化け物は最後にフッと、笑った気がした。 「レイちゃん!!」 コンクリの山から聞こえたその声の主は、すぐさま近寄ってくる。 「セン」 「ちょっ大丈夫?!ボロボロじゃん!」 センは俺の姿を見ると一人でわたわたと慌て出し、「ドクターのところ行こう!」とレイの腕を引っ張り始めた。 「俺は干からびてると思ったんだけどね」 「…ええ、酷くない?確かに、干からびそうだったけどさあ。レイちゃんが危ないって言うから飛び出してきたの!…ああ、お腹すいた疲れたきつい…」 だんだんとうなだれていくセンを見て、思わず吹き出したレイに、センは、長い前髪の隙間からジト目で睨む。 「何…?文句ある?!どうせ僕は役立たずですよぉだ」 「違う、違う。ありがとう、助かったよ」 「む。でも、レイちゃんが無事でよかった」 そう言って、銀色の髪を揺らすセンはへにゃりと微笑んだ。 彼はレイの相棒だ。ちなみにレイの名付け親でもある。そして、センという名前はレイがつけた。自分が“零”ならば、もう一人は“千”、と。 「ああ、そういえばそろそろ本部まで行かなきゃだから。今日出るよ」 「え…。もうそんな時期…?うえぇ、本部まで長いよぉ。人多いよぉ。行きたくない…。」 「ドクターとおんなじこと言ってる」 あまり表情の変わらないレイと違い、コロコロと表情を変える相棒は「行きたくない」と言い出すと、逃げ出す可能性もある。レイはどうやってセンを連れていくかを考えながら、本日二度目のドクターの診療所まで向かった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加