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卒業式
「淡島、そろそろ泣き止め」
「泣いてませんっ!」
「じゃあ、何だというんだ?それは」
木野川の長い指が、淡島の白い頬に触れた。その手をじっと見つめる。まるで他人事のように、頬に感じる暖かな涙も、きっと自分の涙ではないかもしれない。そんな馬鹿げた現実逃避をしながら答えた。
「体液です」
「嫌な答え方をするな」
珍しく可笑しそうに木野川が微笑んだ。その笑顔を見たらまた、淡島は胸が締め付けられる気がした。3年前の別れの時は。まだ追いつけるという確証があった。それでも今回は。
「付いてなんて……いけないですよ……」
ため息を吐きながら淡島の手首にそっと手を置く後輩の。空いているもう片方の手で、その頭を軽く撫でてやる。木野川の進学先は、海外だ。学力面でも淡島にすれば天変地異が起きても行けるはずがない場所。
「今生の別れでもあるまいし」
「こんじょう?」
「もうこれきり、ではないだろう? お前と俺はきっと腐れ縁だ。お前が途中で嫌だといってもな。別な道に歩んだとしても、またいつでも逢える」
「腐れ縁なら……これからもよろしくお願いしても?」
「構わない」
それを聞いて。やっと安心したように微笑む後輩の。額を軽く、木野川は人差し指で押した。
時間は平等に過ぎていく。離れも旅立ちも、いつか輝けるモノにして。道が違えど、また逢える。この春色の空の下で。
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