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 二十一年かけてつくってきた自分を数分で分析されるテストの結果は全く役に立たず、はずの職業はどれも納得がいかないまま、もう全部嫌になって仮病を使い引きこもっていた三年の冬。毛布にくるまった上から掛け布団を被って動画配信アプリの映像を漁っていた時、不意におすすめに姿を現した一人の配信者の動画を私は何となく再生した。彼は長年精神病を患っているらしく、壮絶な人生を語りながらも視聴者に明るい未来を信じさせる発信をしている人だった。  どうせ、なんて言いながらネットの記事や他人の言葉を飲み込めない私であるが、何故か彼の話す言葉には耳を惹かれ目を奪われていた。きっと彼の声が優しくて、まだ眠くぼうっとする私の頭には心地よかったんだろうが、ふとした瞬間私は無意識に涙を流していた。理由をつけるなら彼の「生きてりゃなんとでもなる」とか「頑張らなくていいよ」とか、よく聞く優しい言葉のせいなんだろうけど、彼の声が私を優しく包み込むみたいな暖かさを覚えた私はしばらく布団の中に顔を埋めて泣いた。  誰かと同じようにしなくていい、出来なくていい。それは悪い事じゃなくて仕方のない事なんだから、したい事出来る事をすればいい。それらを見つけるのも大変かもしれないけど、待たずにやって来る明日にばかり気を奪われないで、落ち着いて生きていけば抱えてるものと折り合いをつけられる日がいつかきっとくる。  多分私はみんながしていることを「しなければいけない」とどこか思っていた。恋愛も、結婚も、安定したとこへの就職も。でも私は別にそれらをしたいわけじゃない。そして私はしたくないことをやり遂げられない。恋愛や結婚に関しては仲良しの勇次がいれば空虚ながらなんとか彼女と妻をやり遂げられたかも知れないけど、でもやっぱり心にぽっかり空いてる穴は一生塞がらないんだろう。
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