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Ⅲ
春の代名詞である桜がこれ見よがしに顔を開く時期。人生で四回目の卒業式を、私たちは迎えた。
深い学問と就職活動という困難を共に乗り切った仲間たちと抱き合って別れを惜しむ学生の姿が目立つ中、群れている私の仲間に今までありがとうと軽くお礼を言って、相変わらず乾いている目には気にも留めず私はアパートに駆け足で戻った。式の最中ずっと、今日業者が来るというのにまだ片付いていない部屋が気がかりで仕方なかった。
どたどたと激しい音をたてながら部屋を片付けているとインターホンが鳴って、嘘だろと焦りに焦ったものの扉の前にいたのは勇次だった。「まじでびびるからやめて」と手伝いに来てくれた勇次にも文句を言いながら、自分の怠惰に苛つく気持ちであたってしまった事を心の中で謝る。
「てかいいの?みんなともっと話さなくて。」
お願いした身が相手のプライベートを心配するのはちょっと変だろう。それにはつっこまずせかせか手を動かしながら勇次はうんと鼻で答えた。
「優奈こそみんな寂しがってるんじゃない?」
「さあね。ちゃんとバイバイ言ってきたし、もういいっしょ。どーせ今後会わないんだしさ。」
画面の奥の存在の言葉を浴びてからというもの、私は急に周りに冷たくなった気がする。彼が届けたかったのは暖かい言葉のはずなのに、気持ちを振るいだたせるどころか頑張るという熱を冷ましてしまった私は表に出来ない事例だろう。でも、これでいいんだ。いつか自分が心を動かされるものに出会った時、それに身を粉にすればいいんだから。
そんな私は特に興味のなかった人たちと付き合うのも面倒になって、相変わらず行われていた飲み会にも参加しなくなった。それでも連絡一つ寄越さないみんなだからきっと私の事をどうとも思っていない。
「優奈、変ったね。」
やっぱり一番近くにいた勇次はそのことに気づいていたらしく、でもあれこれ説明するのも面倒だから「そうかな」とだけ答えておく。
「今の優奈も好きだな。」
『変ったね』が悪い意味でないことを伝えるために言った勇次の言葉に喜ぶ反面、冷め切った人間を好きという勇次も変ってるなと思った。でもこれが私だから、どうしようもないんだけど。
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