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「足掻いても無駄だよ。元々君も戦闘力に特化していない。姫の薙刀に塗られた毒もそろそろ回ってくるだろうし」
「はぁ?」
白樹の言葉に対し、血管をピクリと額に浮かび上がらせて腹正し気な声を溢す鴉男だったが、唐突に膝から崩れ落ちた。
「⁉」
鴉男は何が起こっているか分からない。
「ほらね。もう君は動けない。少なくとも、半日はね」
白樹の言葉通り、鴉男は俯せに倒れたまま指一本動かない。視点はある一点を見つめたままだ。まるで蝋人形のようにピクリとも動かない。
それを横目で見ていた白姫はしてやったり、という風に口端を上げた。
白姫は聖花の手を握ったまま、薙刀で宙に円を描く。
「汝、我が望みの地へと送り届けたし」
白姫がそう唱えた瞬間、二人は光の柱に包まれ、その場から姿を消した。
「聖花ッ!」
「聖花ちゃんッ」
目の前で娘が消えた雅博と響子は悲鳴じみた声で叫ぶ。
「白樹」
響子に銃口を向けていた男性が白樹の名を呼ぶ。それだけで男性の意図を理解する白樹は無言でコクリと頷き、二枚の呪符を碧海夫妻の額に飛ばした。
「汝、我が手で眠りし時の橋」
白樹は呪文を唱えながら、右手の甲を左耳の傍に持って行き、手の甲にそっと乗せるように頭を左に傾ける。そのまま、右手を右宙にスライドさせて右手の平で握り拳を作る。
拳を作った瞬間、碧海夫妻は意識を手放した。いつの間にか前方に回っていた男性はうつ伏せで倒れそうになる二人を前方から支えた。
「兄さん」
白樹は少し嬉しそうに男性の元に駆け寄った。
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