75人が本棚に入れています
本棚に追加
/155ページ
プロローグ
「ぇ?」
ベージュと白色の花で埋め尽くされた渋い深緑の古典。品の良い振袖に身を包む少女は、背後から与えられた衝撃に耐えきれず、ホーム下へと落ちてゆく。
前下がりのミディアムボブは地に向い、眉を隠した右流しの前髪は倒れた影響により乱れる。
その際髪の隙間から、少女の持つ独特の色をした瞳が垣間見える。
濃いオレンジ色と赤黒い色を混ぜたような色。例えるならば、スぺサルタイトガーネット色をした、独特の美しさがある瞳だ。
「きよかーッ‼」
少女が持つビー玉のような瞳は、目の前の視界に捉えた恐怖に涙が滲む。
鎖骨下まで伸ばされた髪を三二mmのコテで巻き、ハーフアップにセットにした黒髪が寒風で乱れる。
軽やかなミントカラーに、ミモザと立涌模様がバランスよく配置された着物が汚れることも厭わず、ホームに両膝と両手をつき、ホーム下を覗き込む。
「ッ!」
今しがた転落した碧海聖花は痛みに顔を歪めた。
「聖花⁉ 大丈夫か? 生きてる? 聖花ッ」
年齢より幼く見られがちの童顔を蒼白させた守里愛莉は、うつ伏せで倒れ込んでいる聖花に声をかける。周りにいた大勢の人達が騒ぎ出し、聖花の安否を確認する。
「な、なんとか……」
くぐもった声で答える聖花は両掌をついて上半身を起こす。
「聖花! 立てる? はよぅ逃げな電車が来てまうッ」
愛莉の言葉通り、電車到着を告げるチャイムがホームに鳴り響く。
最初のコメントを投稿しよう!