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がっしりとした体格の男は狭い車内で肩を揺らすと、剃り上げた頭を左右に振り、油断のない目線を夜明け前の街並みに注いだ。
信号待ちのクルマ、路地裏のカラス、新聞配達のバイク。平穏な光景をかき乱す犯罪が起きれば、真っ先に急行するのが機動捜査隊だ。
大黒橋源一は、警視庁機動捜査隊の警部補主任だった。部下の深谷守巡査とペアを組んでいる。深谷守は新卒の若手ノンキャリア組で、もっか現場鍛錬中だった。深谷はいかにも今風の若者で、何でもそつなく業務をこなしていく。上司の大黒橋にとっては、イケメンタイプの部下はどことなくやりずらい。指示に対して素直に応じているが、腹の底で何を考えているのかわからない不気味さがある。
一方、深谷守は大先輩の警部補をお手本にしていた。何しろ体形と風貌に迫力がある。戦車のような凄みがハンパない。町のダニどもを蹴散らしてしまう鋭い目つき。反面、被害者に対するいたわりの声掛けは優しい。人の痛みを共感できる警官なのだ。
警察無線が鳴った。
――緊急発令、飯田橋駅西口神楽坂下交差点付近のお堀池で男性水死体発見の一報あり。現場付近車は急行されたい――
大黒橋は右手で無線機をとり、左手で脱着型の赤色灯をつかんだ。
「こちら機捜468。現在地、新宿花園町。現場向かいます」
――機捜468、了解しました――
赤色灯を車の屋根にのせた。
「行くぞ、深谷」
「はい!」
深谷はハンドルを握り直し、アクセルを踏み込む。
夜明けの街にサイレンが響き渡った。
JR飯田橋駅から神楽坂へ向かって伸びる橋のたもとに人だかりができている。白黒塗のパトカーも現着していた。
二人の捜査員は手際よく山吹色の<機捜>の文字がプリントされた腕章を巻き、毛髪混入防止用のキャップをかぶり、手袋をはめた。
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