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 春の装いにしては茶色いコーデネイトで統一された――ジャケット、トレーナー、カーゴパンツ、靴、ショルダーバッグ――のほっそりした中年の男が、狭い部屋の椅子に座っていた。  大黒橋が腰をおろすと、中年の出頭者は落ち着きのない目線を泳がせた。警官をまともに見ることができないのは、たいがいは、心のどこかに葛藤を持っている。 「あなたはまだ逮捕されたわけじゃないから」  大黒橋は桜の季節ですねえと世間話をして、相手を落ち着かせた。緊張していると滑舌が悪くなって聞きづらくなるからだ。少し遅れて、深谷がトレイに紙コップの緑茶を入れて部屋に入ってきた。「粗茶ですが。どうぞ」  深谷は紙コップをテーブルに置くと、部屋の隅の小さな机に向かい、ノートパソコンを開いた。「あなたがこれから話すことは、これに記録されます。録音もされますが、捜査の可視化が義務付けられているので容赦ください。まずは、あなたの氏名と年齢、住所、職業を教えてください」 「はあ・・・」  出頭者は怯えたような返事をすると、もぞもぞと答えた。 「門伝光樹(もんでんみつき)。四十三歳。千葉県船橋市習志野台・・・勤め先は、幕張にある冷凍食品の管理会社です」      
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