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「十一時くらいまで飲んで、今度は、お堀池でまた飲みました。缶ビールと酎ハイを買ってね。そのうちに伊崎さんが、実は、もんちゃんが風俗で働いていたのを知っている奴がもう一人いたって話しだしたんですよ」  伊崎ともんちゃんが二人で新宿の街を歩いているところを、同じサークルの畠山和仁に見られたというのだ。畠山は以前からもんちゃんが水商売に手を染めていたことを知っていて、たまたま伊崎ともんちゃんが一緒にいるところを発見して、姦計を思いついたらしい。畠山は口止めを条件にもんちゃんとの関係を迫った。一回きりのつもりが、二回、三回とエスカレートしていくと、さすがに怖くなったもんちゃんは断り続けたという。畠山はその腹いせに、噂を流したのである。噂は婚約者の西島修太にも届き、ついに破局してしまった。  事の真相を知った光樹は動揺した。  光樹の動揺は怒りに変わった。 「伊崎さんが急に畠山とかいう奴に見えてきて・・・それで、突き飛ばしたのです。そうしたら、池に落ちちゃって・・・申し訳ありません。殺すつもりなんかさらさらなくて」 「それでどうしましたか」  大黒橋は冷静に尋ねた。 「そのまま帰りました。どうせ落ちただけだから這い上がるだろうと思ってました。そしたら、影山さんからラインが来て、伊崎さんが死んだと」 「ふむ。頭に血が昇りすぎて、刃物で刺したりしてない?」 「え? 刃物なんか使ってません」 「ホントに? せっかく出頭したのだから、全部正直に話した方がいいよ」 「刃物なんか使ってません、本当です。どうして、そんなことを訊くんですか」 「アイスピックみたいなやつで刺された痕があってね。心当たりない? 酒飲んでたよね、酔っぱらって前後不覚とかさ」  大黒橋は辛抱強く粘った、被疑者の顔色をじっと凝視する。単純に池に落としただけなら単純暴行、死亡したら傷害致死罪だが殺意があったわけでもなさそうだ。殺人未遂罪、殺人罪も視野にいれるのか、それをこれから見極めなければならない。  部屋のドアがノックされて、男の鑑識係が入ってきて手招きした。 「ちょっと、いいか」 「ん?」  大黒橋は、ちょっと失礼と言いながら、部屋から出た。  鑑識係は死体検案書を見せた。 「直接の死因はパリトキシン中毒。首の後ろに針傷があった。溺死じゃないよ。池から這い上がったところを、背後から誰かに襲われたと思われる。れっきとした殺人だ。捜査本部を立ち上げた方がいいぞ」 「パリトキシンだって?」  大黒橋は顔をしかめた。  やはり、厄介な事件に発展しそうだった。    
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