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 お堀池の縁で、花束と煙草の箱を手向けている年配の女がいた。淡いベージュのコートを羽織り、首に花柄のスカーフを巻いている。女はしばらく合掌していたが、立ち上がると大黒橋たちに向かって会釈した。 「あの、警察の方でしょうか」  上品な話し方だった。 「そうですよ」  大黒橋は頷いた。服に機捜の腕章を巻いていたから、女をそれを認めて判断したのだろう。 「私、ここで亡くなった人、知ってます」 「え、ご存じなんですか」大黒橋は警戒した。死亡者の氏名が報道されるのは今夕か明朝だ。「死んだ人の名前をいえますか」  女は一呼吸おいて答えた。 「はい。たぶん、伊崎雅也さん。違いますか」 「ほう」大黒橋と深谷は顔を見合わせた。「ほかに何かありますか」これは、深谷守巡査の質問だった。 「ええ。あの、もしかしたら、詩の原稿を持っていたと思います」  女は遠くを眺める目つきになった。  大黒橋は女の視線の先を追った。JR中央線の線路土手の上に注がれているようだ。そこには開花を控えた桜並木が見えた。 「失礼ですが、あなたは亡くなった人のご家族?」 「違います」  女はきっぱりと否定した。  大黒橋が詳しい話を聞きたいと申し出ると、女は素直に応じた。
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