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「大学時代のノスタルジーですか。本筋とはあまり関係ないようですが」
深谷が焦れたように口をはさんだ。
「申し訳ありません・・・」影山梨沙子は頭をさげた。「今と違って、ケータイもネットもない時代ですし、喫茶店は大事なコミュニケーションツールでした」
「わかりますよ」大黒橋警部補が頷いた。「四十五年も昔では、当事者しか知らない事案もあるという事ですな。作家の高橋和巳は、学生運動の擁護派だと聞いています」
「でも、わたくしたちの頃には学生運動も下火になっておりましたから。当時の芥川賞作家も学生運動を扱っていました」
「それであなた方の青春はどうなりましたか」
大黒橋は鋭い目線を梨沙子に向けた。
「もんちゃんと西島修太さんは、破綻しました」
梨沙子の声は震えていた。
「え。だって、卒業したら式を挙げる予定だったのでしょう?」意外な発言に深谷が驚きの声をあげた。「何が起きたっていうんです?」
「ある事件が起きて、それが原因で二人は別れたのです」
婚約者の西島修太は大学を中退して郷里の徳島へ帰り、もんちゃんもサークルには顔を出さなくなった。「西島さんは広告代理店の内定を辞退したようです。もんちゃんは大学に残ったようですが、卒業式に出たという話は聞いてません。式に出なくても証書はもらえますから。実は、その原因を作ったのが、伊崎雅也君でした。彼が、あんなことをしなければ・・・いえ、彼だけの責任ではないのですけど」
遠い日の記憶をほぐすように利紗子は目を閉じた。
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