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昭和五十年代は麻雀の全盛期でもあった。学生街には雀荘が乱立し、どこの店も朝から晩まで満卓(満員)が珍しくない時代だった。男子学生の娯楽といえば、麻雀が主流の時代である。
伊崎雅也は、仲間内のサロン麻雀よりも真剣勝負の麻雀を好んだ。新宿の歌舞伎町へ赴き、怪しげなフリー雀荘で見ず知らずの人種たちと打ち合う。対戦相手は学生、サラリーマン、職業不詳者、メンバーと呼ばれる店の従業員、水商売風の女などだ。雅也は、空気の張りつめた賭け麻雀にのめり込んでいた。締め付けられるような緊張感、胸ポケットに押し込んだ紙幣の束の感触がいい。卓を打つ牌の音の異様な静けさに痺れる。それがいい。
凩が吹き始める頃だった。
雀荘で一勝負終えた雅也は、歌舞伎町から新宿南口に向かっていた。途中に淫靡なネオン看板が並ぶ一画があった。
雅也が南口に向かわず東口に向かっていれば、やがて訪れる不幸は回避できたかもしれない。
風俗店から出てくる門伝敦子と鉢合わせしてしまったのだ。
雅也は目を疑った。もんちゃんによく似ている子だと思った。やり過ごそうとした。
だが彼女は彼を呼び止めた。
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