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一度目の
唯ちゃんと僕――新山智樹は幼馴染みだ。まるで兄妹のように、互いの世界に最初から居座っていた。
だから僕は唯ちゃんの全てを知っていたし、唯ちゃんも僕の全てを知っていたと思う。
唯ちゃんは、人見知りを極めた女の子で、常に僕の後ろに身を隠していた。それが定番の配置になり、幼稚園に進んでも変化しなかった。背中にくっついてくる姿が可愛くて、唯ちゃんを一生涯守護するヒーローであろうと誓った。
そんな唯ちゃんだ。当然、園の中では一言も話さない。だがそんなことは、僕にとって何の問題でもなかった。その頃には唯ちゃんが言わんとすることが読み取れたし、何よりそれが自分一人であることが嬉しかった。
多少の不便さはあれど、声なしでも時間は流れて行く。僕たちは、そのまま園を去るのだと疑わなかった。
問題が起きたのは、卒園間近のことだ。
「唯ちゃんだけお返事をしないのは変!」
そんな発言が一つ、場に上ったのが始まりだった。
それは、卒園式の練習中の出来事だった。名前を呼ばれて返事をし、卒業証書を受け取りにいく――そんな一連の流れが繰り返される中、それが唯ちゃんの番で止まった。その直後に響いた。
恐らく、誰にも悪意はなかったのだろう。だが、重ねられた同意で、唯ちゃんは泣きそうになっていた。その姿が可哀想で、横にいた僕は半ば反射的に叫んでいた。
「じゃあ僕が唯ちゃんの代わりにお返事する!」
先生より早く立ち上がり、唯ちゃんの手を握る。唯ちゃんが握り返してくれた感覚を、今でも鮮やかに覚えている。
結局、それで話が纏まり、式は無事に終了した。帰り道、照れ臭そうに笑った唯ちゃんは、やっぱり僕のちょっと後ろを歩いていた。
それが、初めての式の思い出だ。
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