二度目の

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二度目の

 小学校に上がっても、僕らはほとんど変わらなかった。  相変わらず控えめな唯ちゃんは、他の友だちと過ごさなかった。いや、友人を作るとのハードルが、どうしても越えられなかったらしい。  だが、近距離での相槌だけは可能になり、僕は早々返事役を降りることとなった。寂しくあったものの、相槌の後、嬉しそうに笑う横顔がそれを薄めた。  こうやって少しずつ離れて行くのかな、と考え込んだ記憶がある。同時に、大人になった唯ちゃんが、まだ上手く話せなかったらと心配にもなった。  一度だけその思いを伝えたら、泣かせてしまった。それからは、僕が一生守るからに言い換えた。    小さそうで大きな前進を手に、六年はすぐに過ぎた。  そして、当然の行事として、卒業式はやってくる。    大勢の前で緊張する性質は変わらず、唯ちゃんは自分と戦っていた。さすがに指摘はなかったが、自らに渇を入れ、一人懸命に練習に励んでいた。そんな姿を前に、僕は応援し続けた。    結局、唯ちゃんの返事は僕にしか届かなかった。ぐっと涙を堪え、証書を取りに行く背中は丸い。だが、六年前、声も出せなかった唯ちゃんにとっては、大きすぎるくらいの進歩だ。 「唯ちゃん頑張ったね。僕はちゃんと聞いてたからね」  戻ってきた唯ちゃんに声をかける。涙を堪え続ける横顔は、演台を見つめていた。  最後に僕の名前が呼ばれ、大きく返事をする。唯ちゃんは、ラストを飾る祝辞を待たず、泣いてしまった。    それが、二度目の式の思い出だ。
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