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三度目の
どれだけ待ってと叫んでも、日々は無情に過ぎて行く。
唯ちゃんは中学生になり、一気に大人っぽくなった。とは言え、中身はやっぱり唯ちゃんで、大人しい女の子としてクラスに溶け込んでいた。だが、特定の友人にはやはり恵まれなかった。
「ともくん、寂しいよ……」
消えかけの声で呟きながら、帰り道によく泣いていたものだ。その度に僕は、頭をそっと撫でて慰めた。止まってくれない涙に心を痛めながら。無力な手のひらを呪いながら。
だが、唯ちゃんの強さが見えるようになったのもその頃からだった。悲しみをバネに、変化を手繰り始めたのだ。結果、声量は上がらなかったものの、クラスメイトと簡単な会話を楽しめるようになった。
他者に向かって笑う姿は新鮮だった。寂しさと安堵のせめぎあいは、何度経験しても慣れなかったが。
そしてあのイベントは、唯ちゃんを試すようにやって来る。そう、卒業式だ。
唯ちゃんも卒業式には思い入れがあるのだろう。原動力の根本は分からないが、今度こそ返事をすると意気込んでいた。
無人になる放課後を狙い、毎日練習していた。努力を重ねる唯ちゃんは、とても美しかった。僕は何度でも名前を呼び、応援し続けた。
その甲斐あってか、ステージに届くくらいの返事が出来た。
唯ちゃんは、やっと普通になれたよ、と笑った。
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