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小さい頃から何でびっくりしないの?とよく姉になじられた。
嫌、なじられたという表現はいささか大げさだろう、が、他に上手い言い回しが思いつかないのでこうさせていただく。
顔にでない、何考えてるかわからない、思ったことははっきり言った方がいい、それじゃあ伝わらないよと姉は今もうるさく言うが、この世にそう驚くことはないし、特に何も考えていないし、聞かれたら何でも答えてるし、特に問題もなく今日まで生きてきたのだが。
「何であんた平然としてるわけ?」
私は今驚いたと言うよりこの世の終わりかの如く絶望を張り付けた自分の顔を見ている。
何だ、できるんじゃないか。
これを姉は望んでいたのか、お見せできないのが至極残念だ。
「何か言ったら?」
「そうですね」
「そうですねじゃないでしょ。何でそんな平気な顔してるわけ?」
おお、私こんな声出せるんだ。
まさか自分で自分と対面できるなんてどうやら奇跡が起こっているらしい。
「平気というより、まあ起こってしまったものは仕方ないかと」
「何が仕方ないよ。どうしてそんな無責任な事言えるわけ?信じらんない」
「すみません」
「何であんたが悪いわけじゃないのに謝るのよ」
「そうですね」
あー、もうあんたと話してても埒が明かないと言い、私は両手で頭を掻きむしる。
目の前にいるホットアップルパイに齧りつく自分をまるでスロー再生するかのように私は見守る。
目の前の私はあちっと言い、バニラシェイクをズズズとすすり、口をエクレア型にして首を振る。
それは私なら絶対にしないであろう仕草で、少し面白い。
「これからどうすんの?」
「どうとは?」
「あー、もうあんたって、いっつもそんななの?疲れる」
「すみません。でもじたばたしても事態は一向に改善しないでしょうし」
「それよ、その態度。何でそうなんのよ。もっと、あーとかぎゃーとかあるでしょ?」
「あーもぎゃーも言ってもしょうがないですし。寧ろこの先どうなるかわかりませんけど、まあ同性で良かったかと」
「は?」
「他人のふりして生きるのに異性はハードルが高いかと」
「何言ってんのあんた?」
「だって仕方ないじゃないですか。こうなってしまったものは」
「仕方ないって、どういう発想よ。あんたひょっとして初めてじゃないわけ?」
「初めてに決まってるじゃないですか。他人と身体が入れ替わるだなんて」
学校帰りにクラスメイトと廊下でぶつかった拍子に身体が入れ替わってしまった。
まるで漫画のような、嫌、漫画ならこんな雑な展開しないに違いない。
私と彼女、大崎真希はクラスメイトだけど特に仲良くもないが、仲が悪いと言うような因縁すらなく、簡単に言うと卒業したら一生会うことのない他人という表現が一番しっくりくるであろう関係に過ぎない。
こんな風に放課後駅前のマクドナルドで向かい合うような仲では絶対になかった。
そう、人物相関図に置いて矢印のない、関わりというのすら烏滸がましい程、美しい彼女の物語に私は存在しないはずだった、昨日までは。
「他人って表現冷たすぎない?同じクラスでしょ」
「自分以外の人間なんですから他人で間違いないのでは」
「あんたって、そういうキャラだったんだ。何て言うか可愛くない」
「すみません」
「何回謝んのよ。もう謝るの禁止。二度と私にすみません言うのやめて」
「わかりました」
「何かでも無表情キャラにすると私の美形っぷりが際立つ。そうしといた方がいいかも」
やはりこれくらいの御顔立ちを所有されていると自分でも自覚しているわけか。
せっかくだから鏡見てみたいな。
そして百面相してみたい。
できるかはわからないけど。
「まあ、確かにあんたの言う通り、明日は学校休みだし取りあえずお互いの家に帰るしかないわよね。しゃくだけど」
「そうなりますね」
だぁー、と言って大崎真希イン涌井潤は下唇を噛む。
私そんなことしたことない。
唇痛くないのかな。
「私がここで倍ビッグマックドカ食いしても食べたのはあんたってことになるのよね。なら実質カロリーゼロでは?」
「そうなりますね」
「あんたカフェラテだけでいいの?」
「夕飯食べられなくなったら困るので」
「小食なの?まあちっさいもんね」
「そうですね。そんなに食べる方じゃないですけど、今日はカツ丼なのでお腹を空かせておかないと」
「ああ、そっか、家族構成とか聞いとかないとね。あんたの家まとも?」
「まともとは?」
「親無職とか母親の内縁の夫とかひきこもりの兄弟とかそういうのないでしょうね?」
「その三つはないです。家族構成は七つ上の公務員の姉と介護施設で働いている母と祖母の四人で暮らしています。会社員の父は福岡に単身赴任でお盆とお正月とゴールデンウィークに帰ってきます」
「いい環境じゃない。入れ替わりには。他人のオッサンと暮らすなんて耐えられないもんね」
「そうですか」
「当たり前でしょ。あんたからしたらお父さんかもしんないけど私からしたらただのオッサンじゃない。普通に気持ち悪いわよ」
「すみ、いえ、続けてください」
「ごめん。こんなこと言っといて何だけど、家父親いるから。あと四つ上に大学生の兄もいる。あと家の家族皆構いたがりで一日中喋ってるような人達。かなりうるさい。まあ家族仲はいいと思う。でも入れ替わりには最悪の環境かも」
「そうかもしれないですね」
「ごめん。あんたんち女ばっかで暮らしてんのね。でもあの、あれだから、家の父親お風呂上がり裸で上がってくるとか酔っぱらって子供に絡むとかないから。そもそもお酒飲まないし。ただうるさい。ずっと喋ってる。お兄ちゃんも」
「それは困りましたけど、まあ仕方ないですね。頑張ってみます」
「あんた家族にもそんな喋り方なの?」
「はい」
「私そんな喋り方しないからね」
「難しそうですね」
「思ってなさそう。まあ、ご飯食べてお風呂入ったら寝ちゃえばいいか」
「そうさせてもらいます」
「私もそうしよ。あんたの家族ってどんな人達?いつも何の話してるの?」
「母と姉が一方的に話していて私はいつも聞き役です。祖母もあまり話す人ではないです。よく食べますけど」
「お祖母ちゃん元気なんだ」
「はい。どこも悪くないです。畑もやってますし」
「へー」
「姉はラグナロクのミンジュンのファンで、そのグループの話が多いです。インスタの更新でセルカがあったらずっと喋ってますね。ちなみに私もその人だけフォローしています」
「誰?」
「韓国のアイドルです。知りませんか?」
「歌はアニソンしか聞かないから」
「意外です。アニメ見るんですか?」
「あんたは見ないの?あんたの方がよっぽどオタクっぽいのに」
「見ないです。姉も見ないですし、母はネトフリで韓国ドラマばっかり見ています」
「うちもそう。お母さん韓国ドラマばっかり見てる。何だっけ、名前言われても憶えらんないんだよね。何か足長い人」
「皆さん長いですよ」
「何か硬めのプリンみたいな感じのガチガチした名前」
「わかりませんけど、硬めのプリン好きです」
「私は柔らかいとろける系のプリンが好き」
「お兄さんとはどんなお話をするんですか?」
「漫画とかアニメの話」
「私できないです」
「だから今日はご飯食べてお風呂入ったらさっさと寝て。付け焼刃の知識じゃどうにもなんないし。オタクは一日にしてならずよ」
「わかりました」
「家すっごい過保護だけど引かないでね」
「わかりました」
「ご飯美味しいって聞かれたら美味しいって言ってあげて」
「わかりました」
「まああんた余計な事いわないからいいか。あれ、あんたって何部?」
「文芸部です」
「じゃあ土日部活ないか」
「ないです。大崎さんは?」
「私は手芸部」
「運動部かと思っていました」
「・・・・・中学はバスケ部だった。小四からミニバスやってて、でももうこりごり」
「その話長くなります?」
「は?」
「いえ、深刻な話なら私達聞くような間柄ではないなって」
「あんたってくっそドライなのね。ホント可愛くない」
「すみ、いえ、その通りだと思います」
「まあ、あんたの言う通り異性じゃなくて良かったわ。不幸中の幸いね。男と入れ替わるだとかぞっとする」
「そうですね」
「取りあえずグループ作ろ。グループ名何にする?」
「お任せします」
「おおわくでいっか」
明日十二時に再びマクドナルドで会う約束をし、何か思いついたらすぐラインしてと言われ駅で別れた。
最寄りの駅で降りると教えられていたナンバーの車を見つけたのでドアを開けて助手席に乗り込むと、やはり大崎真希の母親たるものこれくらいの美形であろうなといった想像通りの女性が柔らかな笑みを浮かべ迎えてくれた。
「お帰り。真希ちゃん」
「ただいま」
声小さかったかな。
できるだけ溌剌とした大きな声を意識したけど大丈夫だったのだろうか。
「今日アジフライにしたからね。タルタルソースかけて食べようね」
「うん」
「苺大福も買っといたよ。後で食べようね」
「うん」
「どうしたの?元気ないね?何かあった?」
「ないよ、大丈夫」
「ホント?何もない?」
「ないよ」
「学校で嫌な事あった?」
「ない。大丈夫」
「無理しないでね。何かあったら言って」
「何にもないよ」
「今日ね、小池さんに教えてもらった映画見てたんだけど途中で寝ちゃった。
明日もっかい見なくちゃ。あとね脳にいいらしいから読書しようかなって。
活字はいいらしいよ。昔お祖母ちゃんが買ってくれた日本文学全集読んでみよっかな。今読まないときっと一生読まないでしょ」
「うん」
「そう言って前も挫折したよね。夏目漱石の何だっけ、あの、猫」
「吾輩は猫である」
「そうそう、途中で断念したわ。難しくって」
「面白いですよ。夏目漱石。私は夢十夜の百合の話が好きです」
「え?」
しまった。
もうぼろがでてしまった。
「お、お腹空いた」
「あ、そう。ねえ、いつの間にそんな本読んだの?」
「授業で」
「あ、そう、そっか。そういえば授業で何か読んだ憶えある。何だっけ、あ、出てこない。なんたらの神様、何だっけ」
志賀直哉の小僧の神様ですよと心の中で言う。
大人しくしとかねば。
「そうだ、明日どうするの?どっか行くの?」
「うん」
「どこ行くの?」
「お友達と出かける」
「どこに?」
「マクドナルドに」
「それから?」
「・・・・・買い物して」
「そう。日曜は?」
「まだわかりま、わかんない」
「じゃあ日曜コストコ行かない?」
「うん」
「厚切り鮭買おうね。バジル焼きにしてフライドポテトもつけて。パンとアップルパイも買おうね。お昼は何食べようか、何がいい?」
「何でもいい」
「明日の夜焼肉しよっか?餃子の方がいいかなぁ?」
「餃子で」
「お肉な気分じゃないの?」
「うん」
「ねえ、ホントに何にもない?」
「うん」
「具合でも悪いの?真希ちゃん全然喋らないけど」
「悪くない」
「明日誰と遊びに行くの?」
「涌井さん」
嘘ではない。
本当に涌井さんと待ち合わせなのだ。
性格には大崎真希イン涌井潤と。
「涌井さんって誰?」
「同じクラスの子」
「初めて聞いたよ。そんな子いたっけ?」
「初めて遊ぶ」
「急に仲良くなったの?」
「うん」
仲良くはない。
そうせざるを得ない仲になっただけだ。
何の伏線もない奇跡に寄って。
「どんな子?」
「文芸部の子」
「何で仲良くなったの?」
「・・・・・席替えで近くなって」
「面白い子?」
「面白くはないけど」
「漫画の話したりするの?」
「うん」
「そう」
自分のこと聞かれるって不思議だ。
そして自分と大崎真希の人生は決して交わることなどなかったのだと改めて実感する。
この世は不思議でいっぱい。
私は上手く振る舞えているだろうか。
大崎真希という私の何も知らない少女を。
大崎さんの家は駅から随分遠かった。
大崎さんのお母さんはずっと喋っていたけど、何とか切り抜けられたと思う。
まあ普通に考えて自分の娘がクラスメイト女子と入れ替わるなんて発想誰もしないだろうから、心配することは何もないんだけど。
玄関のドアを開けるとお帰りという男性らしき声がして、背の高いお兄さんらしき人が顔を出した。
「ただいま」
「真希テンション低くない?何かあった?」
「何にもない。ちょっと疲れてて」
「体育?」
「うん」
「そうなんだよな。俺も野球やめてから体力なくなったなって思うもん。やっぱ大学でも続ければ良かったかなぁ。でももう高校でやりつくしたしなぁって」
「うん」
「嫌、マジでテンション低い。どしたの?何か悩みか?悩んでいるんか?」
「何もないよ」
「翔太、テーブルのお菓子片付けなさいよ。あと冷蔵庫のビックリマンチョコのあれさっさと食べちゃってよ。邪魔」
「あんなに食えないよ。飽きるんだよあれ。シールだけ売ってくれたらいいのに」
「大学生にもなってビックリマンチョコって。もういい加減にしなさいよ」
「真希も食ってよ。最近食ってくれないから貯まる一方だよ。何ダイエットしてんの?やめた方がいいって。若いうちからそういうことすると骨スカスカになるらしいよ。あれだよ、こつそそーそー」
「言えてない。こつそそーそー」
「お母さんも言えてないじゃん。今日夜何?」
「アジフライ」
「おおー。いいねー」
「あ、苺大福もう食べちゃったの。もう食べ過ぎよ」
「今日は疲れたんだよー。朝早かったし」
「まあいいからテーブル片付けて。もう」
「あ、真希知ってる?あれ今度実写化だって」
非常に拙い答えられそうもない質問が来たのでご飯まで横になるねと言い逃げる様に階段を駆け上がり、二階を上がって左側の部屋に滑り込んだ。
難しい。
他人に成りすますというのはこんなにも容易ではなかったのか。
大崎さんはオタクを自称していたので、まあ想像していたけど、実際アニメのポスターで壁紙を見えなくしたお部屋というものは耐性がないと皮膚呼吸が出来なくなるだろうなと思った。
姉の部屋に似ていると奇妙な安堵感を私は覚え、そうかこれが郷愁というものかと初めて理解した。
今日は初めて尽くしだ。
黒い学生服姿の黒髪の少し眠たそうな男の子のキャラクターを見て、そうか大崎さんはこういう子が好みなんだと彼女の大事にしまい込んでいる大切な何かに触れた気になり、私の部屋にはそんなものないなと思い、私は部屋までわかりづらいのだと気づいたので、これが終わったらお部屋に何か置いてみようかなと思った。
その何かは一つも思いついていないけど。
夕食は賑やかだった。
大崎さんのお父さんは小柄で、全身に愛情が詰まっているような人に見えた。
私がアジフライのタルタルソースをあまりかけていなかったので皆してもっとかけなよ、どうしちゃったのと大騒ぎだったが、できる限り私が思う大崎真希を演じた。
成功かはわからなかったけど、食事を終え皆で金曜ロードショーのジブリ映画を見てお風呂に入り部屋に引っ込んだ。
疲れた。
私は崩れ落ちる様にドアを閉めると蹲った。
身体を引きずるようにしてベッドに横になりスマホを見ると、大崎さんから大丈夫?と来ていたので、大丈夫とだけ返し、何も考えたくなくなって目を閉じた。
目が覚めたら今日のことが全て夢になっていますように。
そう唱えて寝た。
朝起きるとご都合主義の展開で元の身体に戻っていたなんてことはなかったと思いきや、元に戻っていた。
殺風景な壁紙が全開の私の部屋。
懐かしの私の掛け布団。
ピンクの水玉のパジャマ。
スマホを見ると予定通りマック集合の文字。
時計は十一時四十五分。
私は飛び起き、服を着替え、顔を洗い歯を磨いて、まっすぐに走り出す。
幸い待ち合わせ場所はすぐそこだ。
私は驚かない子だった。
表情に出ない子だった。
今私どんな顔してるんだろう?
見えないのが残念。
今とても彼女の顔が見たいと思った。
この感情を分かち合えるのは地球上で彼女しかいなかった。
この顔で彼女に会いたかった。
初めて秘密を共有した。
たった一晩の刹那の夢を。
それは本当のところ何も起こらなかった。
ありふれたどこにでもある日常だった。
奇跡なんかどこにもなかった。
そう、でも。
私を走らせるあなたは。
「遅い」
「すみません」
「どんだけ寝るのよ。まあ疲れてたんだろうけど。あ、疲れたのは私か。その身体寝る前までは私が使ってたんだもんね」
さっさと買っておいでよと彼女が言うので、私はお昼時で混んでいる列の最後尾に並ぶ。
そわそわしてる。
心臓が暖かく優しく燃えている。
こんなのは初めて。
初めてが多すぎる。
何て忙しい。
こんなのがずっと続くの?
私きっと見たことない顔してる。
帰ったらお姉ちゃんにも見せてやろう。
「昨日はお疲れさま」
「大崎さんこそ、お疲れさまでした」
私はビッグマックに齧りつく、朝ごはんを食べてないしいっぱい食べたい気分だった。
大崎さんも同じものを食べていた。
「あんたのお姉さん面白かったよ。狂ったオタクってどうしてあんなに面白いんだろね」
「あー」
「全世界の一般教養、人類の頂点、地上最強の生物ってパワーワード全開で面白すぎた。つーかお姉さんの推し自撮りばっかインスタあげてんだね。インスタってもっとこう、お洒落なごりごりに凝った写真上げるんだと思ってた。まあでもこれが他人から見た自分の姿なんだなぁって。あとお母さんのカツ丼美味しかった。家によって味違うよね。あとお祖母ちゃんの蜜柑も」
「大崎さんのお母さんのアジフライも美味しかったですよ。苺大福も食べさせてもらいました」
「私の部屋引いた?」
「いえ、寧ろ殺風景な自分の部屋が寂しかったです」
「そう?あんたらしくていいと思ったよ。こんな状況でも平然としていて、何にも執着も依存もしてないんだなって、ちょっとだけだけどいいなって思った。誰にも期待してなくて幸せにしてもらうのを待ってたりしないんだなって、本棚に漫画がないのはびびったけど」
「そうですか」
「家の家族が特別喧しいのかと思ってたけど、どこも大して変わんないね」
「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである」
「何それ?」
「アンナ・カレーニナです。トルストイの」
「よくわかんないけど、私達きっとこんなことがなかったら一生仲良くなんなかったよね」
「仲いいですか?」
「は?仲良しでしょ。同じ釜の飯食ったんだから」
「大崎さんを演じるのは大変でした」
「だろうね。私はあんたやるの楽だったよ。無口無表情キャラはどこにでも必ず一人いるしね。寧ろ明るい活発キャラの方が難しいでしょ。さじ加減というか」
「そうですね」
「まあ、せっかく仲良くなったんだからさ」
「はい」
「もう仲良くは否定しないんだ?」
「まあこんな奇跡滅多にないと思うので」
「そうね。私達が男女ならもうこれ付き合う流れだよね」
「そうなんですか?」
「そうでしょ。つーか、あんなに本あるのにそういうの読まないの?」
「ファンタジーはあんまり。あ、でも夏目漱石の夢十夜は大好きです」
「わかんない。そういえば家に日本文学全集あるよ。読んだことないけど」
「今度読んでみてください」
「気が向いたらね」
「向けてください」
「じゃあ、あんたも漫画読んでよ。春休み一緒に映画見に行けるじゃん。原作読んでないとわかりづらいし。貸したげるから」
「わかりました」
「まあせっかく出会ったんだし、これも何かの縁だし、取りあえず、私達友達ってことで」
「はい。友達ですね」
「そういえばあんたの顔初めてちゃんと見たかも」
「私もです。昨日百面相しとけば良かった。せっかく美人だったのに」
「あんたも可愛いよ。笑うと」
初めての奇跡。
初めての出会い。
初めて自分を知る。
そして。
これからは友達。
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