夜の帳が下りる頃

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 普段は優しい義兄の苛立ちも荒々しい触れ方も、全部が初めてでそれが彼の本性のような気がして、切なくて熱くて堪らない気持ちになった。 「あ、ああ…」  上下に扱かれるモノは外気に晒され、長谷川さんとは違う手の温もりの中で快感に酔う。  キスもしてくれない義兄は俺が達する為だけに手を動かして、それが分かったから首を左右に振った。 「ちゃんと…挿れて」 「そんなこと言うもんじゃないよ、何されるかも分かってないくせに」  吐息と共に囁かれ、激しくなる手の動きに心は悲しみが広がったその時、 「和希、ごめんな」  その声が聞こえて真っ白になる。  体に駆け巡る快感が白濁となって義兄の手を汚し、頬に感じたキスに目を閉じて涙が滲んだ。  でも、あの日あの時、好きだと言いそうになって義兄が呑み込ませた言葉は、腐ることなく未だに続いている。  涼義兄さんが思っていた以上に俺は重症だったのだ。俺の想いがいつか朽ちるものだと勘違いしていたんだ。    義兄が実家に帰って来る時はわざわざ友達の家に泊まって会わないようにして、就職が義兄の近くに決まっても電話さえしなかった。  あれから一度も使ってない手元にあるチェスボードは、自分の気持ちが消えて義兄と普通に会えるようになったら使うつもりでいたものの、残念ながら未だに出来そうもない。  そんな日々を過ごして今日まで生きてきた。  いつか、いつか来ると思ってた。  義母さんや父さんから連絡が来る度、涼義兄さんには彼女がいると聞いてた。  あぁ、まだ義兄は家族に気を使って生きているんだと。彼女と偽った千夏さんみたいな人がいるのを知ってたから。  結婚するって、それって本気なのかよって。  もしもその人が特別な女の人なら、それは義兄にとって素晴らしい事なんだろうけど。    チェスボードの箱をテーブルに置いて、まだ降り続いている雨を見ようと窓から空を見る。  分厚い雲に覆われた空はもう、夜の帳を下ろし初めていた。      
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