夜の帳が下りる頃

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 ゴールデンウィークが明日から始まろうとしている連勤最後の日だった。  夜の10時から始まる遅番を漸く終え、疲れ果てて朝の9時にやっと帰宅してすぐにシャワーを浴びる。  明日から3日間休みというのは嬉しいと思う反面、どうせいつものようにダラダラと過ごしてまた仕事が始まるのだろうと。いつもそんな連休の過ごし方だったから、今回は絶対にそんな休みにしないと意気込んではいてもやはり予定なんてひとつも無い状態だ。  そんな時だ。スマートフォンが着信音を鳴らして、手にすれば画面には『家』とあった『家』とは、実家のことだ。  宮城県仙台市にある実家は仙台の外れの所にあって、周りは田畑ばかりで何もない場所。  暫く帰ってないから明日から始まる連休に一日でもいいから顔を見せろ、そう言われるかもしれないと内心ビクビクしながら電話に出た。 『もしもし?和希?』 「お久しぶり、義母さん」 『元気にしてた?電話もくれないし、お父さん心配してるんだよ』 「ごめん、仕事でさ」 『忙しい?コロナだから少し落ち着いてるかと思った』 「ちょっとずつ戻ってるよ」 『そうよね、感染者もだいぶ減ってきたものね』  嘘は言ってない。  猛威を振るっていたCOVID-19は少しずつ落ち着きを取り戻し、ずっと会えなかった親や祖父母に会いに行く人も増えてきていた。  ただ、俺が働くウィークリーマンションタイプのホテルは県外の客が少なくなってもそれなりに客が入ってる状態だった。 「帰れなくなった人もいるし、二週間滞在してから家に帰る人もいるし、住み着いてる人もいるしね」 『二週間滞在してる人の部屋も掃除したりするの?』 「いや、そういう人の掃除は一応断ってる」 「和希はベッドメーキングしなくていいんでしょう?」 「うん、でもパートさんがみんな休んだらやらないとね」 「そうなの……」 「でもやり方も忘れちゃったくらいやってないよ」 「大変ね」  義母さんはやっぱり心配なようで、俺はそれをいい事に落ち着いたらゆっくり帰ると伝えた。 『仕方ないわよね。あのね、和希。涼一と会ったりしてる?』 「……会ってない、けど」 『そう。リョウから電話があって、お父さんと私に会わせたい人がいるって。結婚するみたいなのよ〜!ちゃんと女の人ですって。私本当に安心しちゃってね、それで和希に電話したの』  結婚もそうだし女の人と聞いても頭の中が真っ白になった。  義母さんに返事すら出来なくて、胸の奥で暴れ狂う感情に息をすることも出来なくなった。 『リョウたち一度こっちに来るらしいんだけど、結婚式もコロナでしないから、来たら入籍だけ済ませるそうよ』 「…………そう、なんだ」 『近いんだから、和希は直接会ったら?』 「……ん」  電話を切ると立っていることも出来なかった。  いつか、いつかこんな日が来ると、分かっていたのに。  
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