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いつかやってくると分かっていたはずの義兄さんの結婚は、俺が思っていたよりもずっと早く、そして突然訪れた。
疲れた体を狭い部屋に置いた座椅子に落ち着かせ、ドロドロとした嫉妬心を必死で振り払おうとテレビのボリュームを上げてみる。
ちょうど流れる天気予報は生憎の雨模様、お天気キャスターの残念そうな顔を見ながら、深く沈めたはずの記憶は勝手に蘇っていく。
あの日も雨が降ってた。
父さんが再婚すると俺に打ち明けたのは小学6年の秋。
母親の顔を写真でしか見たことのなかった俺は、母さんの仏壇の前で再婚を打ち明けられた時、複雑だけどそれ以上に嬉しかった。
やっと自分にも母親という存在が出来ること、その人には自分よりも年上の男の子がいること、嬉しくないなんてあるはずが無いのに、心配そうな顔をしている父さんが印象的だった。
「早く会ってみたい!」
ああ、そうだ。確かにそう言った。
家族が増える、それがどれだけ嬉しかったか。
顔合わせの時も雨が降ってて、父さんの車から降りたらすぐに走って日本食料理屋に駆け込んだのも昨日のように覚えている。
綺麗な和室に通され、初めて見る高級感に落ち着かなくて、座卓には既に用意された4人分の先付け、これからどんな食事が出るんだろうとも期待していた。
あの日の俺は、まるで遊園地にでも来てるみたいな気分でワクワクしてた。
襖の奥が少し騒がしくなって、ワクワクしていた気持ちに照れ臭さと緊張が混じっていく。
あの時どんな顔をしていたんだろう?ゆっくりと開く襖の隙間から綺麗な女の人が俺を見て、にっこり笑って大きく開かれる。そして、その人は女性の後ろに立っていた。
凄く格好いい人、それが第一印象だった。
端正な顔立ちは大人びていて、俺と目が合うとキツくも見える目が優しくなる。
「初めまして、和希くん。お待たせしてごめんなさいね」
そう言われたのに俺は照れてしまって、父さんの腕に顔を隠してた。
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