夜の帳が下りる頃

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「和希、こちらが遠藤 知世(えんどう ともよ)さんだよ。そして和希のお義兄(にい)さんになる遠藤 涼一(えんどう りょういち)くん」 「初めまして、よろしくね和希くん」 「……初めまして」  運ばれてくるウーロン茶とオレンジジュースがグラスに注がれ、顔を真っ赤にしながら乾杯前にオレンジジュースを口にしたのも覚えている。  俺が照れているのを分かって義兄さんは笑い、ますます顔を赤くして見せないようにずっと俯いていた。  赤の他人が突然家族になるというのは難しいものだろうと思っていたけれど、意外と俺は簡単に受け入れる事が出来たように思う。  知世さんをすぐにお義母(かあ)さんと呼んでいたし、涼一さんのことを涼義兄(にい)さんとも呼んでいたのだから。  涼一さんは義母さんから涼と呼ばれていた。父さんは『男の子』なんて言っていたけれど、目の前に座った義兄さんは小学生の俺からすれば大人と少しも変わらなかった。  大人の五年と子供の五年が違うなんて事を知らなかった俺は、自分に出来た義兄さんと想像していたような遊びなんて出来ないじゃんと落胆したような気もする。  でも一緒に暮らすようになってから俺の落胆は無駄になる。義兄はよく遊んでくれたし面倒もよく見てくれた。 「チェックメイト!」 「和希は強いね」 「ホント?って言うか涼義兄ちゃんが弱いんじゃない?」 「俺、結構強い方だと思うよ?」  声変わりした低い声は本当の事を言っているとばかり思ってた。今なら俺を勝たせてくれていたんだろうなって分かる。分からなくなってルールを何度も説明してくれた義兄さんに勝てるはずなんかなかったのに。  チェスは涼義兄さんが持ってきたもので、雨が降って外で遊べないとよく一緒にやってくれたものだ。  茶の間のテレビをつけながら何度やっても俺が勝つ、そんな光景を義母さんと父さんは笑いながら見てたっけ。  でも、そのバランスは少しずつ崩れていく。  俺が中学2年の思春期真っ只中になると、義兄さんは大学生で少年から青年へと成長していった。端正な顔立ちにも磨きがかかって、余計な肉は落ちて筋肉の付き方も変わっていく。  大人の声と思っていた声もどんどんその音色が安定して、掠れることもなく落ち着いていくと耳が擽ったく感じるようになった。  それを間近で見ていて、不覚にもドキドキしている自分に気がついたのだ。  女の子がずっと好きで、親友の本田ともよくエロ本見ては騒いでたのに。  自分はおかしくなってしまった、そう思い悩んでしまって部屋からあまり出なくなった。
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