夜の帳が下りる頃

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 ──── 和希……どうして、今頃。  もっと早く終わらせるべきだった。  もっと早く気持ちを打ち明けて、切り捨てられるべきだった。  シャワーを浴びてから服を着て部屋に入ると、ソファに座ったままの涼義兄さんが冷めたコーヒーを飲んでいた。  顔は見せてくれない。 「お風呂、ありが……と」 「……ごめん」 「俺の方こそ、ごめんなさい」  痛む腰を摩りながら、もう帰れという意味だろうと。  これから待つ日々をどう過ごせばいいのかわからないままだったけど、最後くらいはちゃんと、ちゃんと。 「涼義兄ちゃん……幸せにね」  振り向く義兄に少しくらい爪痕を残したのだろうか?  うまく笑えたのだろうか?  ちゃんと、義弟の顔になっていただろうか?  切れ長の目に映る自分はあまりに小さく、すぐに玄関に向かい濡れた靴を履いた。気持ち悪さも無くて、持ってきた傘を手にしてドアを開ける。 「和希!!」 「──ッ!」  名前を呼ばれて振り向けば、涼義兄さんは少し焦った表情で抱きしめてくれた。しゃくり上げてまた泣いてしまって、このままずっと独り占めしたくなる。 「なんで今頃……」 「ごめ、……い」 「なんでだよっ!」 「お義兄ちゃん、ごめ……さい」  きっといつか晴れる日が来る、そんな約束なんて出来ないのに、お人好しの義兄は強く抱きしめてくれる。 「もしも……義弟じゃなかったら、好きになってくれた?」 「なったに決まってんだろ」  いつかした質問を繰り返し、以前よりも感情的な返事が返ってくる。  ─── それだけで、もう十分だ。  
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