夢幻ループ

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 まただ。また高校の卒業式からやり直し。一体、何度苦しい人生を繰り返せば良いのか。  思えば、選ぶことの出来ない人生だった。子供の頃は勿論のこと、子供の頃のやり方次第で、その後の選択肢は限られる。だから、高校卒業の後をやり直しても、大した変化は期待出来ない。せめて、就職活動前ならば、まだ救いは有ったかも知れない。  いや、ただの希望論だ。何の特技もない、何も後ろ盾を持たない人間に、世間は厳しい。そうだ、だから希望も無かった。  毎日、ただただノルマをこなすだけ。こなしてもこなしても給料は上がらず、増えるのは負担と責任と勤務時間だけだった。  人生を繰り返す内に、転職をする選択肢もあっただろう。だが、何度繰り返してもそれすらやらなかった。新卒で入社し、直ぐに転職先など見つかる筈もない。面接時、いや、エントリーシートの時点で、仕事が長く続かない者は弾かれるものだ。それとも、即戦力になれない者は弾かれるのか。そして、毎日の激務で、次第に考えることもやめた。  そうして、何度高校の卒業式に舞い戻ったのだろう。何時から数えることすら止めたのだろう。ループから抜け出すことを諦めたのだろう。  決して良い人生では無かった。だから、未来にも希望は無かった。だから、抜け出す必要もない。  ループものの作品の場合、何かを変えると抜け出せるものだ。しかし、我が身において、それは何なのか。それの手掛かりすら無かった。いや、探そうとすらしなかった。それだけ、どうでも良かったのだ。生きようが死のうかすら、俺にはどうでも良かった。
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